トランプ大統領で揺れ動いた2017年 国際ニュースを振り返る
【2】北朝鮮のICBM発射・水爆実験
トランプ政権の発足以降、最も高まった緊張の一つは、北朝鮮をめぐるものでした。 米国独立記念日の前日にあたる7月3日、北朝鮮はミサイル発射実験を実施。これに関して北朝鮮政府は大陸間弾道ミサイル(ICBM)と発表し、米国もこれを確認しました。ICBMは5500キロメートル以上の射程をもち、その名の通り、海をまたいで別の大陸にまで着弾させることができます。これに続いて、7月28日に北朝鮮は再び、今度は深夜にICBMを発射。さらに8月10日には、グアム近辺に向けて4発を同時に発射する実験を行うと発表しました。 一連のICBM発射は、4月に始まった朝鮮半島近海への空母カール・ビンソンの派遣など米国による圧力強化を受けてのものでした。相次ぐICBM発射実験を受け、トランプ政権は「世界史に類をみない炎と怒り」が北朝鮮を襲うと強く警告。ところが、9月3日に北朝鮮は水爆実験を実施。「ICBM搭載可能な水爆実験に成功した」と発表したのです。 米国の主要都市のほとんどが北朝鮮の水爆攻撃の射程に収まったことで、米朝の緊張は最高潮に達しました。その結果、米国の発議に基づき、9月11日に国連安保理は北朝鮮に対して、石油精製品の年間輸入量の上限設定や繊維製品の輸出禁止など、これまでにない厳しい措置を含む制裁決議を採択。米朝の対立は膠着状態に陥ったのです。 対立の深刻化にともない、伝統的に北朝鮮と友好関係にあった中国も制裁に加わるようになっており、それは結果的に中国の北朝鮮に対する影響力を弱める一方、これと入れ違いにロシアが北朝鮮の重要な貿易パートナーとして浮上。北朝鮮をめぐる問題は、大国間の関係にも大きな影響を及ぼしています。
【3】イラク、シリアでのIS拠点制圧
2017年は、2014年にイラクとシリアにまたがる領域で「建国」を宣言したイスラム過激派組織「イスラム国」(IS)に対する攻撃が大きな山場を迎えた一年でした。 イラクでは6月にイラク最大のISの拠点モスルを、10月に北部ハウィジャを、それぞれ米国を中心とする有志連合に支援されるイラク軍が制圧。一方、シリアでは8月に中部ホムスが、10月にはISが「首都」と位置づけていたラッカが、そして11月には同国におけるIS最後の拠点とみられた東部デリゾールが、それぞれロシアなどに支援されるシリア軍に奪取されました。 ただし、大部分のIS支配地域の解放が両国の安定につながるかは不明です。イラクではかねてから分離独立を要求してきた少数民族クルド人が欧米諸国の支援を受け、IS掃討作戦の一翼を担ってきました。しかし、IS掃討に目途がたった9月にクルド人が分離独立を求める住民投票を実施。「IS掃討への貢献」と「北東部の実効支配」を盾に独立を求めるクルド人とイラク政府の対立が深刻化しました。同様の動きはシリアでも見られます。IS掃討後の両国では、戦闘を通じて浮き彫りとなった宗派・民族間の利害対立への対応が、新たな課題として浮上しているのです。 これに加えて、各国にとって共通の課題であったはずのIS対策は、結果的に大国間、あるいは周辺諸国間の対立をも浮き彫りにしました。とりわけ、アサド政権を支援し続けたロシアやイランと、これに批判的な欧米諸国やスンニ派諸国の間の溝は、シリアでのIS対策をめぐり、かえって深まりました。そのうえ、イラクやシリアを追われたIS戦闘員は各地に飛散しており、5月にはフィリピン・ミンダナオ島のマラウィをIS系組織が占拠する事態となりました。世界に衝撃をもたらしたISの置き土産は小さくないといえるでしょう。