“言えない・気づけない”教師から生徒への性暴力。加害教師の「性的グルーミング」を克明に描く漫画『言えないことをしたのは誰?』は全国の学校に置くべき一冊
まるで「時限爆弾」。性暴力に気づかない幼い被害者たち
さらに、性交同意年齢の問題もあります。 性交同意年齢(性行為への同意を自分で判断できるとみなす年齢)は、2023年の法改正で「16歳未満」に引き上げられましたが、それまでは13歳未満でした。中学生でも、性行為への同意が可能、とされていたのです。 改正前の刑法では、13歳未満の人に対して性的行為をした場合、「暴行」や「脅迫」などがなく、その人が同意をしているように見える場合であっても、一律に、強制性交等罪や強制わいせつ罪によって処罰することとされていましたが、今回の法改正では、この年齢が「16歳未満」に引き上げられました。(法務省だよりvol.82)逆に、いままではわずか13歳でも、性行為に同意する能力があるとされており、その年齢の子どもに対する性行為の事実があっても、問答無用で行為者を罰することはできませんでした。性的グルーミングにより自分は恋愛関係にあると被害者が思わされていた場合、同意していた、とみなされてしまう可能性があったのです。 『言えないことをしたのは誰?』で「時限爆弾」という表現がされているように、被害者は被害に気づくのに何十年もかかることがあります。その理由や、被害者が置かれる状況が、本作では克明に描かれています。 近年の芸能界で相次いで発覚した性加害事件などでも、なぜ何年も前のことを今さら言うのか、本当に嫌だったらすぐに警察に行っているに違いない、何年も経ってから言うのは金銭目的だ、といった二次加害発言が大量に被害者に浴びせられています。しかし、こういった声はあまりに実態と乖離したものです。 性被害は、まずそれが被害だと自覚することも大変ですが、やっと声を上げても、被害の状況を何度も事細かに説明する負担ははかりしれず、そこから犯人を起訴するためには、さまざまなハードルがあります。
性犯罪の被害者に、落ち度などない
2017年に、性犯罪の罰則等が改正されましたが、改正は明治40年の制定以来、なんと110年ぶり。旧法では犯罪を認定する要件が複雑で立件のハードルが高く、多くの被害者が泣き寝入りしていました。改正はあまりに実情と乖離した法律に、多くの人が抗議した結果でした。しかし、まだまだ様々な面で不十分なため、さらなる改正が求められています。 さらに、2023年7月から、不同意性交等罪が導入されました。しかし、これに対し、性的行為の同意をいちいち確認していたらムードがなくなる、あとから同意がないと言われたら犯罪者にされる、といった間違った認識からくる反発も多くあり、現在でもそういった言説が溢れています。 本作では、性犯罪の被害者に落ち度はないということを繰り返し訴えています。 『言えないことをしたのは誰?』で養護教諭の神尾は、被害生徒にこう語りかけます。 「あなたは何も悪くない」 「もしもほんの少しでも自分が悪いって思ってるのならそれは絶対に違うから」 「何度だって言う、あなたは何も悪くない」 さらに、本作で登場する被害生徒には様々なタイプがいます。おとなしい子、活発な子。家庭環境の安定した子、不安定な子。 どんな人でも、被害に遭う可能性はある。そして、悪いのは100%加害者であり、被害者は何も悪くない。そんな当たり前の事実を一から啓蒙していかなければならないほど、この社会は性犯罪への無理解と、被害者への偏見で溢れているのです。 本作で描かれるストーリーは、現実で起きた様々な事件と重なる部分があります。加害者の手口と、被害者が置かれる状況について学べるこの作品を、全国の学校に置いて、学校関係者や保護者、生徒たちに教師という立場を利用した性犯罪があるということを知ってほしいと強く思います。そして、この作品を通して社会全体の性犯罪への正しい理解が進むことを願っています。 写真:Shutterstock 文・構成/ヒオカ 構成/金澤英恵
ヒオカ