「相手も性交に同意していたと思う」は、もう通じない。歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(前編) きっかけは被害者の声、どうやって国に届けたのか
ある被害者はこの改訂案の中身を聞いた瞬間の気持ちをこう振り返った。「被害に遭ってから過ごしてきた真っ暗闇の世界に、一筋の光が差した気がして涙が出た」 罪名も変更され、それまでの「強制性交罪」「強制わいせつ罪」から「不同意性交罪」「不同意わいせつ罪」になった。公訴時効を「不同意性交罪」の場合は5年延長し、性的行為に同意できるとみなす「性交同意年齢」も13歳から16歳に引き上げ。被害者の声を一定程度反映した改正法が今年6月、ついに成立した。 ▽当事者が届け続けた声 山本潤さんはこの間、議論の中で自身の被害経験を語り、他の被害者らの思いを代弁してきた。「被害実態の『伝わらなさ』を感じることも多かった」。それでも言い続けた。「当事者の置かれた理不尽な状況を変えたい一心だった」 被害者にとって、経験を語るのは簡単ではない。語るたびに、被害当時のいまわしい記憶がよみがえるからだ。山本さんは法制審部会が開かれるたび、カウンセリングに通った。「本当に本当に、大変だった」
それだけに、今回の改正実現は「被害者の声を受け止めてくれた」と喜ぶ。 全国各地のフラワーデモなどで声を上げ続けた被害当事者らの影響を実感している。 「一人一人の声、行動が積み重なった改正。そのどれが欠けても実現しなかった」 フラワーデモの参加者も喜びはひとしおだ。呼びかけ人で作家の北原みのりさんは、改正法成立後の集会で声を詰まらせながら語った。 「4年間欠かさず、全国どこかで声を上げてきた。『こんな日が来るんだ』と本当にうれしい。今でも、数十年たって被害を訴え始める人がいる。性暴力被害を話せる場所の大切さを感じている」 ただ、法律が変わっても性暴力が根絶されるわけではない。山本さんはこう指摘し、性教育や啓発の重要性を訴え続けている。 「車に乗ったから、部屋についてきたから、『だから相手は同意していた』と誤解している人は、まだまだ多い。その実態を変え、『性的同意』の意味を社会全体でアップデートすることが必要だ」 【後編はこちら】「暗闇の世界に一筋の光」性暴力に遭った女性が感激 歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(後編) 「同意しない意思」の価値