「相手も性交に同意していたと思う」は、もう通じない。歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(前編) きっかけは被害者の声、どうやって国に届けたのか
性暴力は身体的な苦痛だけでなく、人間の尊厳を傷つけ、長年にわたり心をむしばむため、こう呼ばれる。 【写真】「レイプ神話」届かぬ被害者の声 杉田水脈議員は逃げ切ったのか
「魂の殺人」 ただ、日本では刑罰が軽く、加えて立件すら難しい状況が長年続いたため、「加害者が野放しになっているケースが多い」と指摘されてきた。 その状況が、2023年、大きく変わった。23年7月に施行された改正刑法では、性犯罪に対する規定を大幅に見直し、強制性交罪は「不同意性交罪」となった。この改正は「歴史的」と言える。条文の中にこんなメッセージが盛り込まれているためだ。 「同意のない性行為は処罰されるべきだ」 歴史的とも言える法改正が実現したのはなぜか。原動力となったのは被害当事者たちの声。過去に性暴力を受けて苦しんで来た人々が4年前、日本各地で声を上げ、それぞれが味わった痛みを街頭で語り始めた。「私が受けた被害は…」。カミングアウトは連鎖するように続き、やがて大きなうねりに。ついに国を動かした。(共同通信社会部記者) ※この記事は性暴力についての記述があります。サバイバーの読者はフラッシュバックなどに気を付け、無理をされないでください。
▽積み残された処罰要件 この問題の「起点」は6年前にさかのぼる。2017年、刑法の性犯罪規定が改正され、「強姦罪」の名称が「強制性交罪」になった。さらに法定刑も引き上げられ、厳罰化が進んだ。 ただ、被害当時者たちが最も強く求めた部分は改正されなかった。それが「処罰要件」だ。暴行・脅迫要件と言われる。 この要件の何が問題なのか。 「被害者の抵抗が著しく困難な程度」でなければ、加害者を罪に問えないと定めた点だ。つまり、被害を受けて警察が捜査しても、この要件を満たせなければ裁判になる以前に立件できない。要件を満たすためには、「必死に抵抗したけど防げなかった」などと、被害者自身が事実上の立証をできなければならない。恐怖で体が硬直していたり、「やめて」と少し言ったりした程度では、立件できないことが多いとされてきた。 被害に遭った側から見ると、性暴力を受けたのに「死ぬ気で逆らっていないから犯罪にならない」と言われているに等しい。絶望的な状況が続いてきた。