「相手も性交に同意していたと思う」は、もう通じない。歴史的な「刑法の性犯罪規定」改正(前編) きっかけは被害者の声、どうやって国に届けたのか
▽無罪批判のうねり、全国に そんな中、風向きが大きく変わる出来事が起きる。 2019年、性犯罪事件で無罪判決が4件相次いだ。特に、名古屋地裁岡崎支部の事件では、19歳の娘に対する準強制性交罪に問われた実の父親が無罪となった。この判決の問題点は、娘が14歳から性的虐待を受けていたと認めた一方で、「娘が抵抗不能だったとは言えない」と判断していることだ。 この判決が報道で明るみに出ると、各地で抗議行動が起きた。まずこの年の4月11日に、東京・大阪の街頭で女性たちが中心となり、デモが起きた。 このデモでは、参加した過去の被害者たちもマイクを手にし、これまで誰にも打ち明けてこなかった実体験を次々と明かしている。 参加者は、被害者に寄り添う意味を込め、花を手にした。このため、「フラワーデモ」と呼ばれるようになった。デモは1回では終わらず、翌月の11日にも開催。すると次第にほかの地域でも同じ日にフラワーデモが起き、こんな声であふれた。
「顔見知りの男性から被害に遭ったが誰にも相談できなかった。この場所に来て、自分だけではないと知ってほっとした」 「性暴力が無罪になる時代はもう嫌だ。皆さんの声を広げ、安心して暮らせる社会をつくりましょう」 約1年後には47都道府県で開かれるまで広がった。新型コロナウイルス禍でもSNSなどでデモは引き継がれ、現在も続いている。 ▽法改正議論、当事者が参加 ところで、2017年に刑法を改正した際、こんな付則がついた。「3年後に再び見直しを検討する」 これを受け、法務省は2020年3月、有識者による検討会を設置。翌21年には法制審議会(法相の諮問機関)に移る。具体的な議論を進める法制審部会の委員に、被害当事者らの団体「Spring」のメンバー、山本潤さんも名を連ねた。 山本さんは13歳から7年間、父親から性虐待を受け続けた。身近な人や世界を信じられなくなる経験だった。看護師になり、自らの体験を語り始めたのは36歳の頃。性暴力は「人間を破壊する」と語り、講演で被害者への支援などを訴えてきた。