韓国アイドルの日本語や兵役と、日本の植民地支配の歴史。学生たちが「政治と文化は別もの」に抱く違和感
歴史を知るのは「健全な推し活」のためではない
ーーここまでKPOPなどの文化を切り口に、日本の加害の歴史とどう向き合うか、みなさんの考えを聞いてきました。一方で、2冊目の「ひろがる~」のほうでは、本について韓国文化をひとつの入り口にしたことで、「日本と朝鮮の問題について、推しやファンダムのあり方という次元の話に矮小化されてしまうのではないか」と書かれていたのが印象的でした。こう感じたのはなぜでしょうか。 熊野:植民地支配の歴史や、日本の加害行為などについて知ることが、「KPOPや韓国カルチャーを正しく推すための心得」や「健全な推し活」のために必要である、というように受け取られないだろうか、という懸念は、1冊目を作っている時からありました。 たとえば、日本軍「慰安婦」被害者への寄付に繋がるマリーモンド(※)のグッズを使っているアイドルが話題になった時に、「慰安婦」問題が一時的にSNSで広まることがありますが、そういう目立った話題や、自分の「推し」が関わっていなくとも、問題は常に続いています。 「モヤモヤ本」はカルチャーを切り口にすることで多くの人に読んでもらえ、歴史問題をめぐるモヤモヤの輪や問題意識は多くの人と共有できたと思います。ただ、韓国のアイドルや俳優が関わったり発言したりする、兵役や「徴用工」、日本軍「慰安婦」問題などについては語られるようになった一方で、そこに当てはまらない、南北分断や日本における朝鮮学校や在日朝鮮人への差別などは目を向けられにくい現状があります。 それらの歴史的背景を知ることは、「推し活する上で、これさえ知っておけば大丈夫」というようなものでは決してありません。ファンではなかったら歴史問題に向き合わなくていい、というわけではないですし、韓国カルチャーというフィルターを挟まずとも、一人の市民として考え続けることが大事ではないでしょうか。 ※マリーモンド(MARYMOND)・・・2012年に韓国の若者たちが立ち上げたブランドで、元「慰安婦」の女性らを花にたとえて、それをモチーフとした商品を販売。売り上げの一部が日本軍「慰安婦」問題の支援や教育に寄付される。BTSやTWICEなどのメンバーが身につけたことでも話題になった。