韓国アイドルの日本語や兵役と、日本の植民地支配の歴史。学生たちが「政治と文化は別もの」に抱く違和感
日本人が朝鮮語を学ぶこと
牛木:私自身もそうなのですが、韓国に留学したり朝鮮語を学んだりする日本人が増えていますよね。もちろんそれが悪いわけではないですが、日本が植民地支配で朝鮮の言語や文化を奪ってきた歴史があるからこそ、時には慎重さも求められるのではないかと、最近考えています。 たとえば、在日朝鮮人にとって日本で朝鮮語の教育を受けられる数少ない公的な場所が朝鮮学校ですが、「拉致問題」などを理由に高校無償化から排除されるなど、自分たちの民族の文化や言語を学ぶ機会が十分に保障されていません。言語に対して複雑な思いを抱えている人が多くいる中で、彼らからかつて朝鮮語を奪った側の人間である自分が安易に使うことがどのように映るのか、想像し考えなきゃいけないと。 朝倉:言語はルーツや民族性に関わる重要なものですよね。私も韓国で語学堂(※韓国の大学付属の語学学校。多くの留学生が通う)に通っていたのですが、そこで出会った在日朝鮮人の留学生は、日本では朝鮮学校に通っておらず、韓国に来て朝鮮語を学んでいる方でした。 一方で、語学堂に通っていた他の日本人留学生は韓国カルチャーが好きなことがきっかけだという人がほとんど。一見、母語が日本語で、朝鮮語を学んでいるという点で同じように見えるかもしれないけれど、どういう背景や思いを抱えてここで勉強しているのか、自分自身もきちんと考えていかなければと思いました。
市民の「仲の良さ」は、歴史問題の本当の解決になるのか
ーー在日朝鮮人へのヘイトスピーチや、歴史修正主義的な動きが広まる中で、民族性やアイデンティティの問題を軽視して表面的に文化を楽しむことには、危うさも感じます。 牛木:韓国カルチャーが好きだったり言葉を話せたりすることが、「自分は韓国を差別してはいない」「韓国の人を『反日』だとは思ってないから自分は差別主義者じゃない」と言うことの免罪符になってはいけないと思います。 朝倉:たとえ文化が好きでも、日本社会の構造の中で差別に加担してしまうことはありえますよね。在日朝鮮人や、朝鮮半島の人々に対する差別・偏見を助長させてしまうシステムが根付いているならば、文化が好きか否かに関係なく、反対の声をあげたり、行動に移したりしないといけないと思います。 熊野:学生団体による日韓交流の場にも参加しましたが、歴史が軽視され、日本軍「慰安婦」や「徴用工」問題などの被害者が置き去りにされてしまっていると感じたこともあります。今韓国カルチャーのブームや「友好」のムードが広がる中で、歴史問題の語られ方において、日本政府の責任に言及することなく、日韓の若者同士の仲の良さや文化交流が解決の糸口になるという意見もよく見ます。 確かにドラマなどで文化が広まることで偏見が解消されることもあるかもしれません。けれど、日本軍「慰安婦」問題などは人権の問題であり、仲の良さや思いやりがあれば解決されるものではありません。いかに自分が韓国カルチャーを好きで、偏見を持ってないと思っていても、在日朝鮮人や植民地支配の被害者の人権が保護・回復されることとは直接結びつかない。メディアの報道でも、市民の意識としても、歴史問題が政治・外交上の問題と扱われ、「被害者の人権回復」という視点は見落とされがちではないでしょうか。 李相眞さん(以下、李):私は韓国出身ですが、韓国でも、文化と歴史を分けて考えようという意識は、特に若者の間で広がっています。今の日韓交流の盛り上がりや「友好」のムードは、真の友好であり、歴史問題の解決なのでしょうか。相手のアイデンティティや考え方、歴史問題への認識をきちんと知らなければ、何らかの齟齬が生じた時に、表面的な仲の良さや文化交流は簡単に崩れかねません。