韓国アイドルの日本語や兵役と、日本の植民地支配の歴史。学生たちが「政治と文化は別もの」に抱く違和感
南北分断を象徴する兵役。日本の植民地支配との関わりは
ーー日本では、BTSのメンバーの兵役をきっかけに徴兵制度に関する報道が増えました。一方で、日本の一部のBTSのファンが、韓国の国防省傘下の機関が発行する「国防日報」に、メンバーの誕生日祝いとともに「韓民国の軍将兵の皆さんの献身に尊敬と感謝を表する」などとした応援広告を出したことには、日本では批判も広がりました。こういうことが起こる背景に何があるのでしょうか。 熊野:第二次世界大戦で日本が敗戦すると、その植民地支配下であった朝鮮半島は、北緯38度線を境に北半分をソ連に、南半分をアメリカに占領され、1948年には大韓民国と朝鮮民主主義人民共和国が成立しました。その後1950年に朝鮮戦争が起き、今も休戦状態のため韓国では兵役が続いています。 大韓民国が、解放前に日本統治に加担した「親日派」の協力の上で成立した一方、朝鮮民主主義人民共和国は満洲地域で抗日武装闘争を担った金日成が指導者になったという経緯を考えると、日本の朝鮮植民地支配により生まれた同一民族内の対立や矛盾が、解放後の朝鮮半島の南北分断体制にも繋がっていると言えます。つまり、南北分断は、日本の植民地支配に起源があるということです。 また、日韓は1965年に国交が正常化しますが、その背景には、東アジアにおける共産主義の勢力拡大に対抗するというアメリカの狙いもありました。韓国と同じ民族であるばずの朝鮮民主主義人民共和国を「敵」とみなすこの3者の軍事的な協力関係(65年体制)が南北分断を支えると同時に、その関係を崩しかねない歴史問題には蓋をする動きが続いています。 こうした複雑な背景を踏まえると、韓国軍を「応援」する広告は、植民地支配の問題を軽視し、65年体制の維持に直接加担した行為だと思いました。自分の好きなアイドルや俳優が兵役に就くことで「心配、寂しい」などという気持ちになるだけではなく、自分と無関係の問題ではないのだと知ってほしいです。 李:「休戦中である朝鮮民主主義人民共和国との有事に備える」ことを目的に、実際に銃の訓練などを行う韓国の徴兵制度や軍隊は、南北分断を象徴するものです。その軍の新聞に対し、日本のファンがお金を払って広告を出すのは、軍隊を無邪気に肯定し、日本の植民地支配の結果として生まれた南北分断体制の維持に加担する行為として受け止められると思います。 応援広告に対しては、韓国ではあまり批判はありませんでしたが、それには先ほど話した「文化と歴史を分けて考えよう」という意識も関係しているかもしれません。 階級制度に基づき、上下関係などの秩序や規律を重んじる軍隊は、韓国社会の中でも家父長制やジェンダー差別などの社会問題や、それに伴う葛藤の根源になっていますが、同時に絶対視もされています。南北分断を当然のものとする認識が韓国社会にも根付いているのだと思います。