萌えキャラは新時代のインフラ!? 「東北ずん子」の素顔を歩く
姉は「東北イタコ」、妹「東北きりたん」
ネギ、大根、白菜、ほうれん草……ここは、宮城県白石市にある農産直売所「小十郎の里」。野菜が所狭しと並べられた一角に、緑を基調とした何やら怪しげなキャラクター群が鎮座している。 パッケージにキャラクターの絵をあしらった宮城県産ひとめぼれや、白石うーめんなど、その中には確かに農産物はあるものの、大半はクリアファイルやマグカップ、ジャージなど「農」に関係ないものばかり。いったいこれはなんなのか。 「これらは東北ずん子というキャラクターです。東北の方であれば無償で使用できるという情報がありまして、白石の方々を中心に商品開発を進めたものを販売しています」 説明するのは「小十郎の里」を運営する NPO法人「小十郎まちづくりネットワーク」の村上典彦事務局長。東北ずん子は仙台の銘菓「ずんだ餅」をモチーフにしたキャラクターで、「ずん子」という名前はそこから取られている。
東日本大震災の復興支援を掲げ、「ずん子」は2011年10月に登場した。生み出したのは東京都中野区にある「SSS合同会社」。3姉妹という設定になっており、姉に「東北イタコ」、妹に「東北きりたん」がいる。東北6県に本社を置く企業であれば申請不要かつ無償で自社の商品やWebサイトに3姉妹のイラストを使うことができる。 白石市の場合、2013年頃に市内の有志から「東北ずん子で街を盛り上げよう」という声が出た。その時、緑色の米袋にずん子の絵が描かれたシールを貼って商品化したのが始まりだ。「当初、ずん子関連の商品はうちや白石市内の企業が開発したものしかありませんでした。今、それは全体の2割程度です」と村上さん。 残りの8割を開発したのは、仙台市にある共同オフィススペース「コワーキングカフェmag」だ。
版権フリー? あり得ない
仙台市営地下鉄旭ヶ丘駅から徒歩20分、閑静な住宅街を東に行くと、“看板娘”がいた。建屋の2階壁面にどーんと東北ずん子。そこが「コワーキングカフェmag」(以下、「mag」)だ。コワーキングスペースとは、主に個人事業主を対象にした共有スペース。例えば自宅では仕事がはかどらない人が喫茶店代わりに使ったり、趣味や考え方を同じくする人が集まったりといった利用方法がある。「mag」はそのターゲットをオタクと呼ばれる人達に絞り、2014年6月にオープンした。 「周りから理解されにくいゆえに、自分がオタクであることを隠している。そういう人たちをターゲットにしました」と話すのは、「mag」を設立した堀越由紀子さん。「そのためには、そういう人達を惹き付けるためのキャラクターやグッズが必要でした」 転機は設立から間もなく訪れた。東京都中野区にある「SSS合同会社」の小田恭央代表が「mag」にやってきたのだ。小田さんこそ、ずん子の生みの親だった。 ずん子が著作権フリーで使用できる、と小田さんに知らされた堀越さんは、「最初は信じられなかった」と振り返る。「キャラクタービジネスの常識から考えてあり得ない、と」。やっと信じることができたのは、様々なずん子グッズをつくり出し、それらの販売が順調に進んだあと。ずん子をいくら使っても使用料の請求が来ないと確認できた時だった。「小田さんは神様だ」と思った。 生み出されたずん子グッズの数々は、2014年8月6~8日の「仙台七夕まつり」で初お披露目された。