「ペインティングス・アー・ポップスターズ」(国立新美術館)開幕レポート。荒川ナッシュ医による国内初の美術館個展
東京・六本木の国立新美術館 で、アメリカ在住のパフォーマンスアーティスト・荒川ナッシュ医による、アジア地域における初めての美術館個展「ペインティングス・アー・ポップスターズ」がスタートした。会期は12月16日まで。 荒川ナッシュ医は1977年福島県いわき市生まれ。98年からニューヨーク、2019年よりロサンゼルスに居住する米国籍のクィア・パフォーマンス・アーティストだ。様々なアーティストと共同作業を続けながら、「私」という主体を再定義し、アートの不確かさをグループ・パフォーマンスとして表現している。ロサンゼルスのアートセンター・カレッジ・オブ・デザイン、大学院アートプログラム教授。 本展は荒川ナッシュによる個展でありながら、同氏に協力する20数名の画家による絵画が会場内に「登場」。それぞれの絵画を存在感のあるポップスターとみなし、荒川ナッシュはその絵画のアティテュード(姿勢)から発案された協働パフォーマンスを会期中に発表するものとなっている。 同展の開催を前に、荒川ナッシュは次のようにコメントした。「海外で活動する大変さやフェミニストの観点から物事を伝えるために、尊敬・共感する画家たちの作品をお借りした。一見キュレーターのような取り組みではあるが、アーティストだからこそできることもあったと感じる。国立美術館でパフォーマンスを行うため、どこまで許されるのかを見極めながら展覧会をつくった」。 会場の入口を入ると、展示室の床にはたくさんの絵が縦横無尽に描かれている。これは具体美術協会の創始者・吉原治良 が芦屋公園で行ったパフォーマンス《どうぞご⾃由にお描きください》(1956)に基づき、荒川ナッシュがテート・モダンで実施した《メガどうぞご⾃由にお描きください》(2021)だ。このパフォーマンスは毎週日曜日に来場者の参加が可能。美術館の床に誰もが自由に絵を描くことができるチャンスとなるため、ぜひ参加してみてほしい。 荒川ナッシュとその夫は、アメリカで卵子提供と代理出産を経て12月には双子の子供を授かる予定となっている。「絵画と子育て」のフィールドでは、子育てと作家活動を両立させていくことについて考えを巡らせており、実際に育児をしながら制作活動をしている作家らの作品をピックアップして紹介している。 「絵画とLGBTQIA+」のフィールドには、荒川ナッシュが行ってきた絵画と身体によるパフォーマンスの一部や、記録映像が上映されている。取材時には、絵画のなかに飛び込む《ネメシス・ペインティング》を見ることができた。会期中には3日ほど実施が予定されており、来場者の参加には同意書の記入が必要となる。
文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)