【子宮けいがんとワクチン】子宮けいがん激減、発症ゼロの国も──イギリス在住研究者に聞く
子宮けいがんとそれを防ぐためのHPVワクチンについて、イギリス在住の江川長靖氏(ウイルス学者・ケンブリッジ大学病理学部、専門は分子ウイルス学)に聞きました。 *続き*【子宮けいがんとワクチン】キャッチアップ接種 20代でも打つべき?──イギリス在住専門医に聞く イギリスでは2008年から、Year8(中学2年相当、12歳、13歳にあたる)女性を対象に学校集団接種という形で、HPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐワクチンが導入されました。翌年から2年間(2010年まで)大学入学前の18歳までの女性を対象にキャッチアップ接種も行われました。 集団接種開始から15年たち、ワクチンを接種した集団で子宮けいがんが9割以上予防できるというデータが得られ始めたのを受けて、イギリスの保健機関は、2040年までに子宮けいがんを撲滅レベル=年間10万人あたり4人以下にすることを目標にすると約束しています。(日本は10万人あたり約15人)
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■イギリスで起きていること 20代発症の子宮けいがんの激減
キャッチアップ接種を受けた集団が子宮けいがんが発症し始める(そして初めて検診の対象となる)25歳となった2015年以降、20代後半の子宮けいがん罹患率が減少し始めるのが、グラフでわかります。2019年には、ワクチン導入の2008年にYear8でワクチンを接種した集団が25歳になって検診を受け始めると、減少傾向は加速し、2020年には10万人あたり9人を切りました(2015年は22人以上だった)。この間、ワクチン接種者がいない30代の子宮けいがん罹患率に変化がみられないのとは対照的でしょう。この統計は未接種の人も含む全体のデータになりますので、ワクチン接種者に限ると子宮けいがんが9割以上減ったと考えることができます。 適切なタイミングでワクチンを接種すると20代の子宮けいがんはほとんど発症していません。キャッチアップ接種の世代では、減り方が少ない=ワクチンの効果が小さくなっているのは、接種率が低かったことと、接種時にすでに性的経験がありHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染していた人がいたからだと考えられています。 そして今後、20代が、13歳までにワクチンを接種した集団で置き換わっていくと、さらに子宮けいがんが減る。次の5年10年、この集団が30歳になると、30代の子宮けいがんの減少がみえてくると予想されています。40歳以下の人口が、12、13歳といった適切なタイミングでHPVワクチンを打った集団に置き換わるのはだいたい2040年頃で、その頃には、イギリスの子宮けいがんの罹患率は今の半分以下、年間10万人あたり4人ぐらいになるとみられています。(注:WHOは10万人あたり4人以下になることを、子宮けいがん撲滅と定義している。) イギリスの保健省は2040年頃に子宮けいがんを撲滅レベルにするという目標を設定し約束しています。この集団が50歳60歳になっていくと、ワクチンと検診を合わせて、この「10万人に4人」という数字を「2人」とか「1人」にできるというのが、今世紀の中頃から後半に向けての目標になります。もちろん、その実現のためには、現在イギリスで実施されている、70%の女性が3年に1回の子宮けいがん検診を受診するというのが前提になっていることも、強調されるでしょう。