「みんなと同じでいたいけど、違っていたい」『東大ファッション論集中講義』の著者が語るファッションの魅力
ファッション研究者が今注目するデザイナー
――本書では、平芳さんが注目されているブランドやデザイナーもいくつか紹介されています。今見ておくべきブランドやデザイナーについて、改めて教えてください。 海外だとイリス ヴァン へルペン。素材・テクノロジー・造形の3つにおいて新しい提案をしてくれるブランドです。3Dプリントを初期の頃から使っていて、造形表現やテクニックという観点で見ても面白いんです。日本でも見たいのですが、なかなか見る機会がない。ミュージアムピースとして展覧会にはよく出てくるんですけれど、日本のデザイナーにはない感覚ですね。 ――日本のデザイナーで注目している方はいますか? 日本人のデザイナーで言うと、YUIMA NAKAZATOの中里唯馬さん。オートクチュールでも活躍されていて、針も糸も使わないのに体にフィットする洋服を作っている方。色彩の感覚や、造形的なセンスにおいても新しい試みをしている人です。 あとは、この本には取り上げなかったんですが、HATRA。男性、女性といったところにとらわれない、新しい服作りをしているブランドです。わざわざジェンダーフリーと押し出してる感じではないけれども、メンズでもレディースでも着られる肩肘張っていない感じも今の時代にとても合っていると思います。 デザイナーの長見佳祐さんが自分のファッションデザインの方法論を伝えるために本を出版したりもしているのですが、そんなふうに手のうちを人に見せるというのはファッションブランドとしては珍しい。自分の技術や方法を人には知らせたくないというのが旧来的なファッションブランドのあり方なので、そういった服づくりに対する態度も新しいと思います。
ファッションをコスプレのように楽しむ
――最後に、平芳さんは研究者である前にひとりの人間としても、当然毎日服を着られると思うのですが、日常におけるファッションとはどのようなものですか? 研究者という立場を忘れたとしても、ファッションは面白いと感じられるものでしょうか。 服って確かに日常的なものなんですけれど、非日常も演出してくれるもの。教壇に立ったりイベントに出て話す時は、ファッションの研究者だから、どんな服装で来るのだろうかと期待されることもある。そんな時は、ファッションの研究者であることをコスプレのように楽しんだり(笑)。 普段は普通に生活者であり、本を読んだり研究したりすることが多いので、作業着としては本当に楽な、着心地が良くてリラックスできるものがいいですね。ユニクロや無印良品ももちろん着ますし、大学では普通の先生っぽい格好をしていることもあります。 逆に、いわゆるデザイナーものを着ることもありますし、子供が小さかった頃は、「VERY」に出てくるような“お母様スタイル”をしていることもありました。「ファッションってめんどくさいな」っていう人もいるかもしれないですが、その時々のファッションによって演出できる自分を楽しんでほしいなと思います。 平芳裕子(ひらよし・ひろこ) 1972年、東京都生まれ。神戸大学大学院人間発達環境学研究科准教授。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。専門は表象文化論、ファッション文化論。主な著作に『まなざしの装置――ファッションと近代アメリカ』(青土社)、『日本ファッションの一五〇年――明治から現代まで』(吉川弘文館)。 東大ファッション論集中講義 定価 990円(税込) 筑摩書房 » この書籍を購入する(Amazonへリンク)
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