「みんなと同じでいたいけど、違っていたい」『東大ファッション論集中講義』の著者が語るファッションの魅力
19世紀の女性ファッション誌にあった緩やかな双方向性
――従来の雑誌メディアとデジタルメディアとの大きな違いとして、情報発信の早さ、すなわち「即時性」とともに、情報を発信する側と受け取る側のやりとりが発生するという「双方向性」もあげられることが多いと思います。双方性という点については、デジタルメディアに特徴的なものといえるのでしょうか? 双方向性という観点で言うと、19世紀の女性ファッション誌にも実はありました。読者の通信欄というものがあって、読者が編集部宛に手紙を書いてファッションについて質問し、編集部が回答を書いていたんです。そういう緩やかな双方向性は存在していたんですよね。 雑誌は読者に買ってもらわなければならないものなので、読者の期待に応えるために、一方向ではなく、緩やかな双方向性をもとに読者の要望を編集者はすくい上げ、記事にして、読者の憧れるものを作って……というその関係性の中で雑誌ができ、流行が生まれていました。当時は雑誌を鉄道で運ぶといった物理的な移動が発生していたので、双方向と言ってもかなり時間はかかっていたと思うんですが。 ――双方向性という特徴自体は、実ははるか昔から存在していたんですね。そうなると、やはり情報のスピードが一番大きな変化と言えるのかもしれません。そこに対応し続けるのは、情報を発信する側としてはなかなか大変なことですが……。 ある時期まではファッションショーの情報も、テレビや雑誌などの大手メディアが伝えてくれないと下々の者には届かないのが当たり前でした。けれども今はInstagramやYouTubeを使ってブランドが直接、しかもリアルタイムで消費者に語りかけるという、新しい情報の伝え方が生まれているんですよね。 じゃあその即時性では敵わない状況においてファッション雑誌は何を扱うかというと、編集の面白さとか、着眼点とか、新しさ。時間が多少かかっても価値のある特集を作る。それはそれで、やっぱり読者にとっては魅力的な部分もあると思います。時間の流れや時間の使い方が変わってきているので、それに応じたコンテンツを作成する必要があるという点では、少なからぬ影響や変化はあると思います。情報のスピードという軸だけで評価されないものも求められているのではないでしょうか。