哲学は役に立つのか。NTT澤田会長に聞く、「できない」から始める哲学論
現場作業ができないと課長として認められない
──そうですか。さて、澤田さんは京都大学を卒業して、土木コースで当時の日本電信電話公社(現NTT)に入社されたんですね。 澤田:電線の通路建設、電線を入れるパイプの保守・管理が仕事でした。土木系を出た人は土木の仕事しかできないという時代です。 そしておかしなことですけれど、土木系は留学の対象にはならなかったのです。ですから結局留学は行けませんでした。トラウマがあるかもしれません(笑)。 あの頃のNTTはオペレーショナルで、階層化された企業でしたから、メインラインで入社していないと将来は限られてしまう。伝統的な日本の軍隊的な組織でした。 他の人たちが留学している間、私は雑読していました。20代、30代はいろいろな本を読んだと思います。 ── 入社してからずいぶんいろいろなことをやっています。 澤田:1990年代後半にはスタートアップ企業の技術支援でアメリカに行っていました。NTTのアメリカ本社はニューヨークでしたけれど、私がいたのは相手先企業があるバージニアでした。オフィスを借りるところから始めました。 英語もできないのに不動産屋さんを紹介してもらって、オフィスの契約をしたり準備したり……。 その後は、技術系の仕事に加え、秘書室、法人営業、労務の首席交渉委員などをやりました。人事以外はほとんどやっています。文科系のポストにも理科系のポストにもいましたから、両方のしんどさと良さとあかんところが分かるところもあります。 思えば、結構いろいろな仕事をやらせてもらって幸せでした。そのうち3分の1ぐらいは前任のいないところで「お前、やってこい」みたいな仕事でした。
野地秩嘉