被差別部落の「地名公表」差し止め判決確定まで8年…「立法的解決」による人権救済を原告・弁護団が訴え
差止範囲については「厳しい批判」も
ただ、原告団・弁護団は他方で、判決に対する「厳しい批判」も行った。 出版社側の地名リストには41都府県の情報が記載されていたのに対し、地裁判決では差止の範囲を25都府県にとどめ、高裁判決では31都府県に拡大。 しかし残りの10県について、高裁はリストの出版は違法と判断しつつ、「原告がいない」ことを理由に差し止めの範囲から除外しており、原告団・弁護団は10日付の声明で「全国一律の出版差止を認めるべきであった」と改めて強調した。
弁護団「立法的解決が何よりも必要」
この日、会見に出席した部落解放同盟の赤井隆史書記長は「ネット上、SNS上での権利侵害が横行している」と指摘したうえで、本件判決の価値について、次のように述べた。 「本件は最高裁で判決が確定するまで、8年もかかりました。 今回は部落解放同盟で250人近い人数でまとまって裁判を起こしましたが、不当な権利侵害にあった人が、個人個人で8年間も裁判で争うのは相当無理があるのではないでしょうか。 そういう意味では『差別されない権利』を認め、守るための法律が必要だと思います。 情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)が今年5月に成立し、来年の4月あたりから施行されるという話もあります。 同法に関する総務省のガイドライン案では、私生活の平穏をきたす投稿については、削除の対象になることが記されており、その説明の中で本件の高裁判決がそのまま引用されました。 今回の判決や、こうした動きを足掛かりに、なんとか国会の場で立法のための議論を進めてほしいです」(赤井書記長) また、弁護団の指宿昭一弁護士も、立法による救済が必要だと訴えた。 「本訴訟では、被差別部落出身者が『自らの情報を明かされたくない』という理由で裁判を起こしているのに、裁判を起こせば、逆に原告の情報が世に出てしまうという矛盾を抱えていました。 また、今回、私自身は2、3年で裁判を終わらせるつもりでいたのですが、8年もかかってしまいました。全国の原告の方から、『日々被害をうけているのに、なぜ何年もかかるんだ』という言葉をかけられることがあり、とてもつらかったのを覚えています。 最高裁まで進んだことを踏まえても、8年かかったというのはそれだけ難しい裁判であったことを表すとともに、『今の司法制度ではどうしても時間を要してしまう』ことも浮き彫りになりました。やはり、立法的解決が何よりも必要ではないでしょうか」
弁護士JP編集部