父にさえ伏せた「がん」も自虐ネタで笑いに 爆笑問題・田中が語る優しくない漫才
「『チビ』だとか『カタタマ』だとか、僕が傷ついてなければ『イジり』で、僕が嫌がっていれば『イジメ』みたいなことを言うけど、他人がジャッジする術はないんです。僕だけがジャッジできる」。人を傷つけない漫才が脚光を浴びた今、自分のがんを公表せず、睾丸摘出手術をネタにまで昇華した爆笑問題・田中裕二の「優しくない」笑いに迫った。(取材・文:てれびのスキマ/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース 特集編集部)
イジりかイジメか、他人がジャッジしないで
「何となく『丸くて優しい、善良な人』みたいなイメージがあるかもしれないですけど、僕はそういう人じゃないので。裏ではボロクソ言うときもあるしね。別に『善良な人』だと思ってくれてもいいですし、逆に『実は腹黒い』と言う人もいるだろうから、それはそれでも別に全然いい」
爆笑問題といえば、暴走し毒舌を吐く太田光とそれを止める常識人の田中裕二、というのが世間一般のイメージだろう。だが、ラジオなどを聴くとそれが「誤解」だと分かる。たとえば『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)に鬼越トマホークがゲスト出演した際も、毒舌をまき散らす彼らを抑えようとしていたのは太田で、煽っていたのが田中だった。 漫才師はMCとしていくつも番組を抱えるようになると、漫才をやらなくなる。しかし、爆笑問題は今でも舞台に立ち、テレビでも漫才を続けている異色のコンビだ。
「漫才は、すぐにでもやめたい(笑)。ネタ作りも本番も緊張するしツラい。要はサラリーマンのお父さんが仕事に行きたくなかろうが毎朝行くのと同じようなもので。僕らは『タイタンライブ』で2カ月に1度、新ネタをやらなくちゃいけないし、最近はネタ番組も増えてきて呼ばれますから。毎回、どっかんどっかんウケればいいけど、そうじゃないときも当然ある。噛んだとか、ネタを飛ばしたとかもあったり。ウケないときなんて、最悪ですよ。でも今更やめられないですから。やめるきっかけもないし」
2019年、漫才に異変が起きた。漫才の腕を競う『M-1 グランプリ』で、ミルクボーイやぺこぱの漫才が「誰も傷つけない笑い」などと称され、脚光を浴びた。 「いちばん困っているのはミルクボーイじゃないですか? 『傷つけない笑い』って厳密にいうと『ない』と思うんですよ。どんなにハードなネタだって傷つかない人は傷つかないし、一見、平和そうなネタでも傷つく人はいるわけで」 自身もネタにしながら、時代とともに爆笑問題は笑いの「線引き」を模索し続けてきた。