渋谷TSUTAYA開業1カ月の通信簿 リニューアルは成功か、失敗か
2024年4月25日に「SHIBUYA TSUTAYA」(東京・渋谷)がリニューアルオープンしてから、約1カ月が経過した。現地で客の入りを調べると、改装直後の上乗せ効果を差し引いても、ひとまずスタートは上々と言えそうだ。いったい同店は何を狙ってどう変わったのか。運営元のカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)の高橋誉則氏らの単独インタビューを交えつつ、その真相をひもとく。 【関連画像】各所にフィギュアが飾ってあり、眺めているだけで楽しい 2024年5月中旬、平日の夕方に筆者はSHIBUYA TSUTAYAを訪れた。1階の入り口を入ってすぐのイベントスペースでは、芸能事務所「LDH JAPAN(エルディーエイチジャパン)」の人気5グループの展示会「BATTLE OF TOKYO『超東京拡張展』」が開かれていた。 フロア全体を覆う巨大なボードに並ぶのは、GENERATIONS、THE RAMPAGEなどに所属する総勢45人のメンバーのイラスト。しかもメンバーごとに新進気鋭の異なるクリエーターが担当し、個性豊かな45パターンのイラストがずらりと並び、何とも壮観である。 写真とはひと味違った“推し”のイラストを一目見ようと、10~20代の女性たちがひっきりなしにやってきてはスマートフォンで記念写真を何枚も撮っている姿を見かけた。 驚くべきは、ボードの内側に飾られた複製原画や衣装を展示したエリアや、隣のグッズ販売エリアに入場するのに1500円かかるにもかかわらず、行列ができていたこと。メンバーのイラストをそれぞれあしらったアクリルパネルや、缶バッジ、キーホルダーなど、ここでしか手に入らないレアグッズを買い求めて、ショッピングバッグを抱えて商品販売エリアから出てくるファンらの顔は、一様にうれしそうである。 訪日外国人の呼び込みにも成功している。エスカレーターを上がって2階の「スターバックス コーヒー」は、1階の一部スペースで展開していたが、リニューアルを機に2階全フロアに増床。約100席はほぼ満席で、大半を訪日外国人たちが陣取っている。 お目当ては、全面ガラス張りの窓越しに広がるスクランブル交差点。スマホ片手に通行人が行き交う姿をしきりに撮影する姿が目立つ。様々な言語が飛び交い、大変にぎやかな様子だ。 ●大胆にリニューアルする狙いは? CCCにとって、SHIBUYA TSUTAYAは旗艦店だ。23年10月の休業から半年近くをかけて行った全面改装のポイントは、地上8階、地下2階建てのうち、5フロアで扱っていたCDやDVDのレンタル・販売、3フロアで扱っていた書籍の取扱量を大胆に減らしたことにある。 リニューアル後、物販メインのフロアは地下2階(CD/DVD)、6階(コミック・アニメとその関連グッズ)のみ。代わりに生まれた空間を生かして、3・4階にはシェアラウンジを、5階はトレーディングカードゲーム(トレカ)「ポケモンカード」のプレールームを設けた。いずれも有料で席を確保する必要があり、代わりにゆったりと長時間滞在するのに向く。 約240席あるシェアラウンジには、各所にフィギュアなどが多数飾ってあり、眺めて回る楽しみもある。訪れた際には、3階の窓際にある7テーブルのうち4つが埋まっており、アルコールを傾けて談笑しているグループや、無料で提供される冷凍食品を食べながら本を読む女性などを見かけた。4階も人気があり、声を出してオンライン会議することもできる半個室ブースは9割がた埋まっていた。4人掛けの席に座ってパソコンを広げ、熱心に議論している若者の姿も目立つ。 一言で言えば、新生SHIBUYA TSUTAYAは、物販を目的に短時間訪れる場所から、コンテンツを軸に思わず長時間過ごしたくなる体験ができる場所と位置づけを変えたと言える。では、このリニューアルの本当の狙いはどこにあるのか。CCCは今、渋谷で何を起こしたいのか。 そのヒントは、地下1階入り口に掲げられたメッセージボードに書かれている。「好きなもので、世界をつくれ。」──。 CCC高橋氏は、その意味をこう説き明かす。「世界中の人々が日本のコンテンツに触れるようになった中で、それぞれ自分だけの“好き”が生まれた。その好きに触れられる場所を求めている。しかも身近な場所で。であれば、そのニーズに、世界的にも知られた渋谷の地でまず応えたいと考えた」 SHIBUYA TSUTAYAでは、「コンテンツの時代に世界中のクリエーターが作った作品を日本のコンテンツと世界中の人が最も集まる渋谷のスクランブル交差点に面するビルで紹介し、コンテンツのちからで日本をそして世界をもっと面白く、楽しくする」というミッションを掲げる。 レンタル事業の需要低迷を受けてここ数年CCCは、レンタルショップ「TSUTAYA」を、書籍を中心に様々なコンテンツ・商品にふれ合える複合店「蔦屋書店」へと積極的に転換してきた。渋谷でも、その延長線上で店舗名に“書店”と掲げる手もあったが、それをしなかったのはある危機感からだ。 SHIBUYA TSUTAYAだけでなく代官山 蔦屋書店の仕掛け人でもある戦略店舗開発本部本部長の鎌田崇裕氏は、「11年に代官山に蔦屋書店を構えて以降、店舗で生活提案をうたってきたが、結局(書籍を中心とした)コンテンツを単純に流通させるという従来型のビジネスモデルから抜け出せていなかった」と明かす。