ウクライナ問題 日ロ関係への影響は?
3月18日、クリミア半島でロシアへの編入をめぐる住民投票が実施されたことを受けて、日本政府はロシアへの制裁を発表しました。このなかには、ビザ発給の緩和に関する協議の停止、新たな投資協定や宇宙協定に関する交渉の開始を見合わせることなどが含まれます。ウクライナ情勢をめぐる制裁から、日ロ関係を考えます。
欧米諸国との温度差
制裁を打ち出した日本ですが、その内容には欧米諸国と温度差があります。 最も厳しい制裁を課しているのは米国です。3月20日、オバマ大統領は追加制裁として、ロシア政府高官など16名を資産凍結と渡航禁止の対象に指定し、ロシアの主要産業であるエネルギー分野への制裁も可能にする大統領令に署名しました。ロシアと経済取り引きの多いヨーロッパ諸国は対応に差があり、米国よりやや抑えぎみですが、それでもEUも20日に21名(プーチン政権関係者は含まれない)の資産凍結や渡航禁止の他、ロシアとの首脳会談の中止を発表しています。 これに対して、18日に菅官房長官は「力を背景とした現状変更の試みを看過できない」としながらも、4月に予定されている岸田外相の訪ロを中止するかについて明言しませんでした。
温度差の背景
欧米諸国と比べて、厳しいと言えない内容の制裁が決定された背景には、日本政府がロシアとの関係を重視せざるを得ない三つの理由があげられます。 第一に、北方領土の問題です。ともに2012年に再登板した安倍首相とプーチン大統領は、いずれも北方領土問題の解決と平和条約の締結を目指す意思を示してきました。これに基づいて、2012年12月から5回の首脳会談が行われてきました。 第二に、貿易や投資などの経済関係です。2011年段階で日本が輸入した原油の4.1パーセント、天然ガスの9.3パーセントはロシア産です(エネルギー白書2013)。原発が稼働できず、燃料需要が高まるなか、中東より近いロシアからのエネルギー輸入は、今後ますます増えると見込まれます。 第三に、周辺国なかでも中国との関係です。安倍首相は東南アジア諸国やインドなど、中国を取り巻く各国との協力を重視しており、その観点からするとロシアは、いわば対中包囲網の一角でもあるのです。 これらの背景のもと、日本政府はロシアとの関係が本格的に悪化するのを避けようとしているとみられます。