呪物を使って人を呪い殺す…ホラー小説の大家・貴志祐介が描く「モダンホラー」の奥深い世界
ミステリー文脈のホラー
―ホラー作品では、多少の不合理が物語の中にあっても、「なんでもあり」の力業で押し通すこともできるかと思います。しかし、本作は真犯人が誰か、もっとも忌まわしい呪物は何か、具体的な細部から入念に検証する描写も多く、ミステリーの様相も感じられます。 私が志向するホラーは、ゴシックホラーよりはモダンホラーなんですね。大雑把に言えば時代ものか現代を舞台にしているかという違いですが、私の中でのモダンホラーの定義は、ミステリーの文法で書かれたホラーです。 ミステリーの面白さは、謎を論理で解き明かすことにあるので、そのためには「なんでもあり」ではだめなんです。人知の及ばない世界を描く中でも、論理は大切にしたいと思っています。 ―近年でもホラー作品は人気ですが、どのような作品に人気があるかなど、時流を意識されることはありますか。 もちろん人気の作品もチェックしています。最近勢いがあるのは、フェイクドキュメンタリー系のホラーですが、その面白さは、日常と地続きで共感しやすく、読者を一直線に怖がらせてくるところにあるのではと感じています。私は対照的に、論理や細かな背景など、描写の厚みにこだわっていきたいと思います。やり方はそれぞれ異なりますが、さまざまな形のホラーが今後も生まれ続けるとよいですね。 ちなみに『さかさ星』は二部作の一作目で、後編では『さかさ星』のラスボス的存在の正体に迫る予定です。こちらも描写の厚みで勝負するつもりですので、ご期待いただければ幸いです。 (取材・文/若林良) 「週刊現代」2024年11月9日号より
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