呪物を使って人を呪い殺す…ホラー小説の大家・貴志祐介が描く「モダンホラー」の奥深い世界
貴志祐介さんの最新作『さかさ星』は、呪物を使って人を殺した犯人を追うミステリー仕立ての小説だ。ホラーの大家が大作にどんな思いを込めたのか。著者である貴志さんに伺った。 【写真】『さかさ星』作者の貴志祐介さん きし・ゆうすけ/1959年、大阪府生まれ。『黒い家』(日本ホラー小説大賞)が130万部のベストセラーに。主な作品は『新世界より』(日本SF大賞)、『悪の教典』(山田風太郎賞)など
主人公はYouTuber!?
―物語は旧家・福森家で家族4人が惨殺され、その謎を解明しようと親戚の青年・中村亮太が事件の現場に向かうところから始まります。亮太はユーチューバーで、作品では彼が動画を撮影する場面も折々に登場します。 ホラー作品で、登場人物がお坊さんや聖職者だけだと、少し息苦しさがあるかと思います。ユーチューバーという現代的な職業を混ぜることで、より風通しを良くしようという狙いがありました。 また、亮太は軽いところがある、やや頼りない青年として構想したので、彼がさまざまな困難に対峙する中で、次第に成長していく様子を描きたいという思いもありました。 ―調査の中で、福森家が所蔵する名品は怨念や憎悪がこもった呪物であり、それらが事件の要因であることが明らかになっていきます。作中には幽霊画や河童の木乃伊、また曰く付きの無声映画などさまざまな魅力あるアイテムが登場し、それだけ貴志さんの呪物、ひいては人知の及ばない摩訶不思議な世界への関心の強さが感じられます。 小学生の時に上田秋成の『雨月物語』や蒲松齢の『聊斎志異』などを読み、それ以来現実の外側にある世界には大きな関心を持ってきました。 「オカルト」となると、世間的には霊感商法などうさんくさい印象もあるとは思うのですが、本来はその国の思想や文化が根底にあるので、根も葉もない存在というわけではありません。『聊斎志異』の500編以上の話も、その背景には中国で育まれてきた文化が横たわっており、だからこそどの話も魅力的で楽しめるんです。