おしどり贈与とは?メリット・デメリットと向いているケース、利用時の注意点を解説
3. おしどり贈与のメリット
では、実際に「おしどり贈与」をした場合、どのようなメリットがあるのかを見ていきましょう。 3-1. 財産に偏りがある場合は相続税の対策になる 夫婦の財産に偏りがある場合、「おしどり贈与」を使うことで相続税の対策になります。 仮に、夫の方が妻より財産が非常に多い場合、このまま何の対策もせずにいると、万一夫が亡くなったときに、妻にかかる相続税の負担が大きくなってしまいます。 そこで、「おしどり贈与」を使うと、財産が多い配偶者から少ない配偶者に110万円の基礎控除と合わせて最高2,110万円分財産を一度に移転でき、財産が多い配偶者が亡くなったときにもう一方にかかる相続税の負担を減らせます。 ただし、自宅そのものを贈与した場合には、不動産の登記や取得税などのコストがかかるため、必ずしも節税になるとは限りません。 3-2. 相続開始前7年以内の生前贈与加算が不要である 「おしどり贈与」なら、相続開始前7年以内の生前贈与加算が不要です。 生前贈与は、相続税を計算する際、亡くなった方から受けた贈与(暦年課税の贈与)を相続財産に加算する制度です。2024年1月以降の贈与から、加算される期間が相続開始前3年以内から7年以内になりました(2030年までは段階的に延長)。 このとき、贈与税が非課税となる年間110万円の基礎控除以下の贈与であっても加算が必要ですが、「おしどり贈与」は加算しません。つまり、「おしどり贈与」には一般的な贈与よりも相続税が少なくなる効果があります。 3-3. 自宅売却の税金を安くできる 「おしどり贈与」には、自宅を売却したときの税金を安くできるメリットもあります。 「おしどり贈与」で、夫所有の自宅の一部を妻に贈与すると夫婦の共有名義になります。その後、住み替えで売却する場合、売却益に対して税金(所得税と住民税)がかかりますが、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を夫妻それぞれで使うことができます。夫婦合計で最高6,000万円を譲渡益から控除できるため、「おしどり贈与」をしないで売却するよりも税金を安くおさえられます。 (例)夫所有の自宅 ・20年所有、売却金額1億円、譲渡所得6,000万円、譲渡費用500万円 ・ほかの所得はないものとして計算 ・「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」の適用あり 【「おしどり贈与」を使わなかった場合】 夫:譲渡所得6,000万円 - 3,000万円(特別控除)= 3,000万円 税金:3,000万円 × 14.21%(所得税と住民税を合わせた税率)= 426万3,000円 手取額:1億円 - 500万円(譲渡費用)- 426万3,000円 = 9,073万7,000円 【「おしどり贈与」を使った場合】 「おしどり贈与」で妻に1/2贈与 夫:譲渡所得6,000万円 × 1/2 - 3,000万円(特別控除)= 0万円 妻:譲渡所得6,000万円 × 1/2 - 3,000万円(特別控除)= 0万円 税金:0円 手取額:1億円 - 500万円(譲渡費用) - 0円 = 9,500万円 このように、「おしどり贈与」を使うと426万円多く手元に残ります。浮いた分を夫婦の老後資金やケア付きマンションなどの住み替えの資金にあてるのもよいでしょう。 3-4. 残された配偶者が自宅に住み続けることができる 「おしどり贈与」には、税金面だけではなく、残された配偶者がそのまま自宅に住み続けることができるメリットがあります。 「おしどり贈与」で配偶者に自宅の権利を移しておくことで、相続が発生したとしても配偶者は他の相続人に「ここは今、自分が住んでいる家である」と主張できます。 一方、2018年の民法改正で「配偶者居住権」が創設され、終身あるいは一定期間自宅に住み続けることができるようになりました。このほか、配偶者が亡くなっても最低6カ月間住み続けられる「短期配偶者居住権」があります。 「配偶者居住権」は、残された配偶者が、亡くなった配偶者の所有する建物に住んでいた場合、一定期間あるいは終身賃料なしで住み続けられる権利です。この権利は亡くなった配偶者の遺言か、相続人全員の遺産分割協議で設定できます。 「配偶者居住権」は通常所有権より低い金額で権利を取得できる分、預貯金などのほかの財産の相続も可能になるため、老後資金を確保しやすくなります。 ただし、「配偶者居住権」を第三者に譲渡することはできず、建物の増改築や第三者へ賃貸するには建物所有者の承諾が必要です。また、終身自宅に住める場合でも、配偶者が亡くなった場合には権利は消滅します。 「配偶者居住権」と「おしどり贈与」のどちらを使った方が良いのかは、遺産分割でもめないか、残された配偶者と建物を相続する相続人との関係が良好かなど、個々のケースによります。 一般に、できるだけ早めに、かつ、確実に配偶者へ自宅の権利を持たせたい場合や、将来住み替えで3,000万円の居住用不動産の特別控除を使う可能性がある場合には、「おしどり贈与」の方がメリットが高いと言えるでしょう。