東大推薦合格も、秋田「博士号教員」の指導が凄い 県内の小学生から高校生まで探究をサポート
専門性に基づく指導、大学とスムーズに連携できる強みも
現在、秋田県立秋田高等学校で生物を担当している遠藤金吾氏(47歳)は、埼玉県出身。大学院では生命科学を専攻していた。 「ポスドク時代に研究の世界に限界を感じ、教員になろうと思って応募しました。採用時に特別免許状をいただきましたが、大学時代に教職科目をある程度取っていたので、すぐに残りの科目を取り、専修免許状を取得しました」(遠藤氏) 初年度の2008年に採用され2校を経て、現任校の勤務は今年で9年目。生物や探究の授業を担うほか、進路指導部で副主任、部活動で生物部を担当しており、「博士号の専門性や大学でのキャリア経験を生かせる分担にしていただいている」と遠藤氏は言う。 博士号の強みは現場でどう生かされているのだろうか。 「例えば今の高校生物の教科書には、私が大学の専門課程で学んだような新しい内容がたくさん載っています。いわば1つひとつがノーベル賞級の発見で、授業ではその最新情報やバックグラウンドも含め、大学のどんな研究につながっているかなどを伝えながら、生徒たちに自分で考えさせるような授業を心がけていますね。理数探究については、テーマ設定についてのガイダンス、研究ノートの作り方、実験データの統計的処理、論文の書き方などの授業計画を立て、学科全体で生徒の研究能力を伸ばす指導を行っています。また、博士号取得者は大学のことがよくわかっているので、共同研究やキャリア教育などにおいて大学とスムーズに連携できる面もあると思います」(遠藤氏)
数々の受賞、「打算的な対策をしているわけではない」
遠藤氏は、生徒のコンテスト参加もサポートしてきた。まず前任校では博士号教員として着任後、生徒の希望によってできた生物部の指導を担当することになったが、わずか3カ月で「日本進化学会2010」の高校生部門で生徒が最優秀賞を獲得、その後も各種コンテストの受賞実績がある。 秋田高校でも各種コンテストの受賞を重ねており、今夏の全国高校総合文化祭の生物部門でも生徒が「最優秀賞・文部科学大臣賞」を受賞した。こうした実績は、単に勝ち負けだけにこだわった結果ではない。「『科学的に適切な考え方で研究を進めていく能力』や『論理的に表現できる能力』が育つよう指導しています」と遠藤氏は話す。 遠藤氏の探究指導や進路指導を受け、それまでの活動を通して身に付けた能力が評価され、東大の推薦入試で合格を果たした生徒も複数いる。しかし、遠藤氏は合格のための打算的な対策をしているわけではないという。「生徒が面白いと思って研究することを重視し、探究活動を通じて将来のために望ましい能力を育てることを心がけてきました」と遠藤氏は説明する。 「大学の研究者を諦めてこの仕事に就いたはずなのに、結果として大学の先生と同じように研究費を集めて生徒の研究環境を整備し、研究を通して生徒の能力を伸ばすということをやっています。人生とは不思議なものです」(遠藤氏) 研究を進める中で、遠藤氏が気づかないようなやり方や分析を生徒が語り始めるとき、探究をやりたくないと言っていた生徒が面白さに目覚めたとき――そんな輝くような成長の瞬間に遭遇することがうれしいと遠藤氏は言う。 しかし、全員が研究の道に進む必要はないと思っている。 「全国高校総合文化祭において生物の研究で2位を受賞した生徒は、『本の文化の新しい方向性を創造する』と言って東大文学部に進学しましたが、そうやって自分がやりたいことをやって幸せになってくれたらそれでいい。課題研究で身に付く能力は研究者以外の職業でも有用だと考えています」(遠藤氏)