東大推薦合格も、秋田「博士号教員」の指導が凄い 県内の小学生から高校生まで探究をサポート
エネルギーを持たせてあげることができれば生徒は伸びる
県立大曲農業高等学校の園芸科学科で博士号教員を務める大沼克彦氏(54歳)は、大学院で生殖生化学を専攻していた。2010年に採用され、同校に赴任して今年で15年目になる。 「ポスドク研究員の契約が切れるのを機に応募しました。当初は大学教員が第1志望でしたが、よく考えるとその理由は研究をしたいからではなく、教えたいからだということに気づいたんですよね。ならば大学にこだわることはなく、理科の教員免許も持っていたので博士号教員もいいなと思ったのです」(大沼氏) 大沼氏は秋田県出身だが、地縁は関係なく、あくまでキャリアを生かすために博士号教員を選んだ。学校の要望で採用後に農業の教員免許も取り、現在は16コマほど授業を持っている。担当科目は植物バイオテクノロジーなどの農業系科目のほか、情報系の科目や探究活動に当たる課題研究も担当している。毎月2~3回、小中高と特別支援学校で出前授業を行っており、今年上半期だけで20回実施した。校務分掌ではICT関連を担当し、教務部にも関わる。担任は持っていないものの、業務の幅は広く忙しそうだ。 探究活動においては、テーマを決める際に悩む生徒は多いためディスカッションをさせるが、その中で取り組むべき課題が見えてくることが多々あるという。そんなとき大沼氏は、「これって不思議だよね」「ここすごいよね」と新鮮な驚きを共有しながら生徒に働きかけ、気づきを促すようにしている。 「博士は課題を見つけたり、それをどう解決するかを考えたりするのが好きです。博士号教員の強みは、そうした課題を発見する能力が高いことかもしれません」(大沼氏) また大沼氏は、生徒たちの力を信じている。 「農業高校は、第1志望の普通科に入れず不本意に入学し、専門の勉強を苦痛に感じている生徒が少なからずいます。そのため、自分のキャリアの話を織り交ぜたり、『社会課題になっている飢餓は、君たちがこれから勉強する技術が救うかもしれないよ』と最先端情報と結び付けたりして、少しでも生徒がワクワクするような授業を心がけています。学校や学科で将来を決めつけてほしくないんですよね。生徒にできる限り材料を提供してしっかりとエネルギーを持たせてあげることができれば成績は伸びますし、本人が興味を持てばこちらが感心するほどの課題研究をやり遂げるようになります」(大沼氏) 実際、授業を通じて学習の面白さに気付いたり、「研究がしたい」と大学に進学したりする生徒もおり、そうした姿はやはりうれしいと大沼氏は話す。