「深圳の日本男児」はなぜ狙われたのか…習近平政権が隠す「日本に憧れる中国人が"異常な反日"にはしる理由」
■「海外を褒める=中国をけなす」と曲解される 21年は柳条湖事件から90年の節目の年で、中国メディアは大々的にそれを宣伝。その年は中国共産党創立100周年も重なり、政府が国威発揚につながる言葉で、メディアを使って国民を煽(あお)ってきたことも背景にあるのではないかと思われる。 当時、ある在日中国人からは、「最近、中国国内では、日本など海外を褒めること=中国をけなすことだと曲解され、SNSで猛批判を浴びてしまうことが増えました。ただ単に愛国といっても説得力がないけれど、具体的に“敵”(日本)の存在を強調すれば、説得力が増すからです。 アメリカに対しての批判もそうですが、戦争で戦った相手、日本への批判はとくにウケがよく、つい、そちらに流されてしまう(反日を主なテーマとして活動する)インフルエンサーも少なくありません。彼らは“商売”として反日を謳(うた)っていますが、それを真に受けて、反日と言いさえすれば、気分がスカッとするという人が一定数いるのも事実です」という話を聞いた。 中国は経済的に強くなったが、その独自のやり方やふるまいから世界では認められず、愛国教育を逆手にとることによって、日本や欧米批判に結びつけているとその人は話していたが、それは現在まで続いている。経済の低迷がますます過激な愛国へと傾いており、台湾問題もあって、一触即発の状況に近づいているとも感じる。 ■「習近平思想をわが子に教えたくない」という人も 記事の前半でも紹介したように、2012年に私が取材した際、中国の愛国教育は、日本で当時報道されていたほど過激なものではなく、授業のカリキュラムには含まれていなかったし、当時はSNSも存在しなかった。私が中国の若者に対して、このテーマについて取材して歩くことも、躊躇なくできた。 だが、今年1月の「愛国主義教育法」の施行により、今後は授業に組み込まれるだけでなく、家庭での教育にも取り込むよう、保護者は求められる。21年に始まった習近平思想を学ぶ教科書は、小学校から大学までの必修科目になったが、愛国教育はそれに加えて行われることになる。 昨今、中国から日本に経営者など富裕層が「潤」(ルン=移住するという意味の隠語だが、中国から逃げるという意味合いが強い言葉)して来ることが増えているが、その中には政治リスクや財産の保全などの理由だけでなく、「中国の愛国教育や習近平思想をわが子に教えたくない」という教育面での不安を理由とする人も多い。今後、中国の愛国教育が中国人に、そして、日本にどのような影響を及ぼすのか、再び悲しい事件が起きないことを切に望む。 ---------- 中島 恵(なかじま・けい) フリージャーナリスト 山梨県生まれ。主に中国、東アジアの社会事情、経済事情などを雑誌・ネット等に執筆。著書は『なぜ中国人は財布を持たないのか』(日経プレミアシリーズ)、『爆買い後、彼らはどこに向かうのか』(プレジデント社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか』(中央公論新社)、『中国人は見ている。』『日本の「中国人」社会』(ともに、日経プレミアシリーズ)など多数。新著に『中国人のお金の使い道 彼らはどれほどお金持ちになったのか』(PHP新書)、『いま中国人は中国をこう見る』『中国人が日本を買う理由』『日本のなかの中国』(日経プレミアシリーズ)などがある。 ----------
フリージャーナリスト 中島 恵