前代未聞の事件はなぜ起きたのか? レスリング世界選手権を揺るがした“ペットボトル投げ入れ事件”<RS of the Year 2024>
パリ五輪を筆頭に、多くのアスリートの活躍に心揺さぶられる1年となった2024年。『REAL SPORTS』は、アスリートやアスリートを支える人々の“リアル”を、そして結果や勝敗だけではないスポーツの本質的な価値や魅力を伝えてきた。そこで、2024年特に反響の多かった記事を振り返っていきたい。今回は、レスリングの世界選手権で起きた“ペットボトル投げ入れ事件”について。 (2024年1月9日公開) =================================
レスリング会場で投げつけられた2つのペットボトル――。日本の選手たちがパリ五輪代表の座をかけてせめぎ合うなか、男子グレコローマンスタイル67kg級の曽我部京太郎が巻き込まれた前代未聞の事件とは? (文・撮影=布施鋼治、トップ写真=長田洋平/アフロスポーツ)
消滅した東京五輪・金メダリスト乙黒拓斗のパリ行き
自分の敗北に納得できない乙黒拓斗は通路で思い切りペットボトルを地面に叩きつけた。その瞬間、中に入った水はあらぬ圧力を受けあたりに飛び散った。 2023年12月23日、天皇杯全日本レスリング選手権・第3日。男子フリースタイル65kg級準決勝で波乱が起こった。優勝を確実視されていた乙黒が無印の清岡幸大郎に敗れたのだ。 この階級はまだパリ五輪の代表が決まっていない。出場するためには、この大会で優勝して、来年4月のアジア最終予選か5月の世界最終予選のいずれかでファイナリストにならなければならない。 清岡に敗れた時点で、東京五輪・金メダリストである乙黒のパリ行きは消滅した。清岡サイドから出された2度のチャレンジ(判定に異議がある場合、選手同意のうえ審判団によるVTRでの再確認を要請すること)によって、自分の勝利がなくなってしまい、手にしたペットボトルを投げつけるしか怒りのやり場はなかったのか。 その現場を目の当たりにしたとき、わたしは3カ月前の世界選手権で目撃したあの場面を思い出さずにはいられなかった。そう、あのときも事件のきっかけはペットポトルからぶちまけられた水だったのだから。