津波で家族4人を失った父 新たに授かった娘に「おばあちゃんになるまで生きて欲しい」#あれから私は
震災の年に生まれた次女の倖吏生。4月には4年生、そして9月には10歳になる。上野は、その成長に時折、姉の永吏可を重ねることがある。 倖吏生の小学校入学の時、久しぶりに訪れた学校では、永吏可のいた教室を思い出す。前歯の乳歯が抜けた日には、「永吏可もおんなじだったなぁ……」と考える。 倖吏生が生まれた時、夫婦は、倖太郎と永吏可から一文字ずつ取って、「生」の字を添えて名前をつけた。しかし決して、2人の分まで生きてほしいということではないという。 「倖吏生には倖吏生の人生があるでしょうからね。ただ健康で生きてほしい。とにかく、生きていてさえくれればいい」 兄と姉の知らない年齢を、歩み始めた倖吏生。「おばあちゃんになるまで生きてほしい」。そう言うと上野は目を細め、にっこり微笑んだ。
(敬称略) --- 笠井千晶(かさい・ちあき) ドキュメンタリー監督。1974年、山梨県生まれ。お茶の水女子大学卒業後、静岡放送、中京テレビを経て独立。映画「Life 生きてゆく」で第5回山本美香記念国際ジャーナリスト賞受賞(2018年)。「家族写真 3.11原発事故と忘れられた津波」で第26回小学館ノンフィクション大賞受賞(2019年)。著書「家族写真」は東日本大震災10年を機にオーディオブックとして配信開始。笠井千晶HP https://chiaki.link 「 Life 生きてゆく」http://life-movie.main.jp/