スポーツの価値を引き上げる、それが僕の「第2の人生」
アスリートでありながら、投資家としての意識を持つ「アスリート投資家」たちに、自らの資産管理や投資経験を語ってもらう連載「 アスリート投資家の流儀 」。柏レイソルを皮切りに、ボルシア・メンヘングラードバッハ(MG)、VVVフェンロ、横浜F・マリノス、ジュビロ磐田の合計5クラブでプレー。2023年限りで現役を引退し、現在は酒井宏樹選手(オークランドFC)とともに2019年に起業したASSISTの代表取締役社長(CEO)として多忙を極める大津祐樹さんの最終回になります。 2015年に古巣の柏レイソルに戻ってから2023年に引退するまでの8年間、大津さんはサッカー選手としての活動と並行して投資や資産運用にも力を入れてきました。 それに加えて、2015年に「大津祐樹×酒井宏樹サッカースクール powered by malva」を立ち上げ、本気で勝負に挑むことの大切さと充実感を次世代に伝える活動を開始。2019年には酒井選手とともにASSISTを起業し、大学サッカー部所属の大学生の就職支援(Football Assist=フットボールアシスト)をスタート。イベント・備品支援などさまざまなサポートも手がけるようになりました。大津さんは現役バリバリの時から起業家・社長として多忙な日々を過ごしていたのです。 「僕はファーストキャリアとセカンドキャリアを別枠で考えることもありません。『その時にできることをやっていく』というスタンスを貫けば、先が見えてくるんです」という言葉どおり、アグレッシブな生きざまで自らの道を切り拓いてきた彼に、起業から現在の活動について伺いました。 ■現役選手が本気でサッカーを教える ――大津さんは欧州から戻った2015年に酒井宏樹選手とサッカースクールを立ち上げました。そのきっかけは? 大津:現役選手が本気でサッカーを教える環境が少ないなと感じたのが、最初のきっかけです。プロを引退してからスクールを立ち上げる人は多いですけど、現役選手が子供たちと本気でぶつかり合うような環境はなかなかないと僕は思っていました。 そういう中、自分は「子供たちと一緒にプレーしたい」「本気で戦いたい」という気持ちが強かった。そうやって「プロとは何か」「本物のトップ選手はどういうものなのか」を示すことに意味があると感じていたんです。グランドに行った時にはガチンコ勝負に挑んでいました。生のプレーを体感した彼らには何かしら学ぶものがあると思います。 ――確かにそのとおりですね。その後、2019年に起業に至りました。 大津:会社を立ち上げて最初は大学生支援(フットボールアシスト)からスタートしました。サッカー部で活動をしている大学生と企業をマッチングさせることに意味があると考えたからです。フレッシュな戦力を求める多種多様な会社に大学生を紹介して、活躍の場を作ってあげられれば、双方にとってウイン・ウインになると確信して、事業に乗り出したんです。 サッカー部員など体育会の大学生は本気で1つのことに取り組む能力に長けていますし、問題解決能力も高い。その反面、企業や業種に詳しくなかったり、世の中の動きに疎かったりする傾向がある。彼らに専門的なアドバイザーが関わることによって、マイナス面を克服でき、人生の選択肢を増やすこともできると思います。 実際、僕自身も大学に自ら足を運んで話したり、一緒に就活イベントを開催したりしましたけど、ビックリするほどのよい口コミをいただきました。本当に意味のある仕事なんだなと実感しています。 ■多くの人に選択肢を与える ――2019年の大津さんは横浜F・マリノスでプレーしていて、J1制覇も果たしました。さらに2021年にはジュビロ磐田に移籍して、首都圏から離れました。そういう状況下でサッカーとビジネスを両立させるのは大変だったのではないですか? 大津:そんなことはないですよ。サッカー選手は午前中に練習がありますから、朝からクラブハウスへ行って、全力でプレーします。練習時間は1時間半程度。体のケアなども行って帰るのは午後で、そこからは自分の時間になります。 その過ごし方は人それぞれ。家族サービスや友人と会ったりする人も多いかもしれないですけど、僕はビジネスに充てていただけ。切り替えに難しさは感じませんでした。コロナ禍になってからはオンラインも普及したので、自分が首都圏から離れていても問題なかったですし、より自由にネットワークを作れるようになりました。それも僕にとってはプラスだったと思います。 ――24時間をマネージメントするのは自分次第ということなんですね。 大津:はい。自分がサッカー選手だった時、いちばん嫌だったのが「現役が終わったら大丈夫?」いう質問をされること。そう言われるたびに「スポーツの価値、アスリートの価値をもっともっと高めないといけない」と痛感しました。なぜアスリートがそのような見え方になっているのか疑問でした。だからこそ、その課題を解決したいと思い起業というアプローチをしてきました。 ――その成果はいかがですか? 大津:5年が経ちましたが、大学生支援のほうはサッカー部のみならず、全大学生の支援に拡大。小学生の支援や転職のサポートも幅広く手がけるようになりました。Jリーガーを辞めて違った仕事に就こうとしている元選手の相談に乗ることもありますよ。多くの人に新たな選択肢を与えられているのではないかと感じています。 僕自身はASSISTのCEOだけでなく、腕時計販売専門店「コミット」の取締役にも就任させてもらっています。新たな経験ができて、本当に充実しています。現役にピリオドを打って、サッカー選手生活から離れた今、スポーツの価値の大きさを改めて再認識することが多いですね。 ■腕時計店の経営にも関与 ――コミットに関して言うと、東京都中央区銀座に店舗を構える年商100億円を超える腕時計専門店です。元サッカー選手の大津さんには直接的な接点がないように思われますが、なぜ関わるようになったんですか? 大津:コミットはもともと体育会系出身者が多い会社で、僕らの考えに理解を示してくれて、パートナーシップを結んでいたビジネスパートナーでもありました。そういった関係もあって、コミットの社長から取締役就任のオファーをいただき、2024年1月から経営に携わるようになったんです。 実物資産に対しては、僕自身かなり興味があり、時計は好きで若い頃から買っていました。柏レイソル1年目だった2008年に50万円で買った高級時計が今では倍の値段になっていて、「身に着けられる資産」だと認識しています。趣味と資産性がマッチしていますし、グローバルも通用するもの。そういう意味ではすごく奥の深い世界だなと思いますね。 ――大津さんの話を聞いていると、1年前までJリーガーとしてピッチで戦っていた人とは思えませんね。 大津:そうですか(笑)。確かに生活は変わりました。今は朝に出勤して夜まで仕事をする日々。オフィスにいることが多いですが、営業や打ち合わせにも頻繁に出かけています。休みはあまりないかもしれないですが、そういう生活スタイルはサッカー選手時代とあまり変わりません。サッカーもビジネスも努力し続けることが大切です。そして、ビジネスは無限の可能性があるということ。これからやりたいことはたくさんありますよ。 ――最後に大津さんの今後の投資のビジョンをお聞かせください。 大津:これからも株式相場や市況のチェックは続けていきますし、見る目を養って的確な判断をしたいと考えています。僕は行動力と経験からの分析には自信があるので、それを武器にして取り組んでいきたい。ビジネスに関しても、育ててもらったスポーツに何かしら還元できるように全力で努力していきます。 トップ選手として日本代表まで上り詰め、同時にビジネスや投資の領域でも持てる力を発揮してきた大津さん。だからこそ、2023年限りで現役を退いた後も戸惑うことなく現在の活動に邁進していけるんでしょう。 彼のような人材が輝けば輝くほど、スポーツやアスリートの価値を引き上げることにつながるはず。今後の大津さんの八面六臂の活躍を心待ちにしたいものです。 元川 悦子(もとかわ・えつこ)/サッカージャーナリスト。1967年、長野県生まれ。夕刊紙記者などを経て、1994年からフリーのサッカーライターに。Jリーグ、日本代表から海外まで幅広くフォロー。著書に『U-22』(小学館)、『初めてでも楽しめる欧州サッカーの旅』『「いじらない」育て方 親とコーチが語る遠藤保仁』(ともにNHK出版)、『黄金世代』(スキージャーナル)、『僕らがサッカーボーイズだった頃』シリーズ(カンゼン)ほか。 ※当記事は、証券投資一般に関する情報の提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。
元川 悦子