今さら聞けない「惨事便乗型資本主義」とは? シリーズ「世界の賢人たち」
消費者も行動を!
クラインは、大企業を批判するだけではなく、私たち消費者にアクションも求めている。ストライキや抗議運動、不買運動など、我々も草の根活動で企業を是正していくべきだと述べたんだ。 『ブランドなんか、いらない』は世界的な大ベストセラーとなり、30以上の言語に翻訳された。29歳だったクラインは、これで一躍「反グローバリズム」の騎手となったんだ。 この本は多くの若者に加え、著名なアーティストにも影響を与えた。英国のロックバンド「レディオヘッド」は、この本に触発され、企業がスポンサーする会場を避けて欧州ツアーを開催したほどだった。 だが、クラインはこの本で十字架を背負うことになった。彼女は『ブランドなんか、いらない』の出版以降、「スターバックスに入る勇気がなくなった」と明かしている。ゴシップ記者たちはクラインがダイエットコーラを飲んでいる写真を掲載したり、彼女が出したゴミからブランド品を見つけようとしたりと、大変な目にもあったようだ。
惨事に便乗する資本主義のあり方を批判
2007年、クラインは『ショック・ドクトリン』で「惨事便乗型資本主義」について警告し、この本も大きな反響を呼んだ。 テロやクーデター、自然災害など大きな危機が起きて混乱状態に陥った国家に先進国の大企業が入り込み、彼らだけが得をするような社会にしてしまっている──クラインはこの構図を痛烈に批判したんだ。 惨事便乗型の例として挙げられるのが、1973年に起きたチリでのクーデターだ。当時チリでは、サルバドール・アジェンデが率いる社会主義派の政党が支持を集め、政権を獲得した。 だが、これを快く思わなかったのが米国だ。このときチリには米国の企業が多く進出していた。チリ、そしてチリに影響を受けた近隣の国々が社会主義を標榜するようになれば、自分たちは自由にビジネスができなくなると彼らは思ったんだ。 そこで、米政府はチリの軍部に働きかけ、アジェンデ政権を倒すように仕向けた。最終的には、軍事クーデターが勃発。アジェンデは自死へと追いやられる。選挙によって選ばれたチリ史上初の社会主義政権は、資本主義の存続のために壊滅させられたんだ。