美食家たちを驚かせる、世界中どこにもない“切れ味”から生まれる料理を作る三兄弟に迫る
遊士丸:最初に誰かに料理を出す経験をしたのは中学生ぐらいのときです。近くの神社のお祭りで地域の人たちに料理をふるまいました。そこから両親のカフェを手伝うようになって、さらにレストランで料理を出し始めたのが5年前ぐらいです。 本田:「NOMI RESTAURANT」の前身みたいな感じ? 遊士丸:切れ味を意識しだしたのもその辺からです。2年前ぐらいからコース料理を出すようになって、そうなるとやっぱり表現が大切。それで僕たちができることは何だろうとなったときに、自分たちで獲ってきた福知山にある食材を切れ味と掛け合わせて表現してみようと考えました。藤原さんからは、いくら切れ味が良くても材料が良くなければいけないということを学びました。そこから食材を獲るときにも味というのを意識しています。
ジビエのきれいな味を知ってほしい。自己流で編み出した解体方法
本田:レストランの形にして、今で2年目ぐらい。最初はお客さんってどうやって来たの? 遊士丸:知り合いの知り合いとか。藤原さんが、切れ味を研究している面白い子たちがいますと紹介してくださったり。その紹介で来ていただいた食べることが好きな方が、他にも紹介していただいて広がったという感じです。
凛志郎:最初の頃は、月に2、3回、予約があったらいい方でした。 本田:そうなんだ。今はどんな感じ? 遊士丸:今は、多いときで月に15日ぐらい営業しています。後の10日ぐらいで狩猟や農業をしています。自分たちで食材を獲ってこないといけないので。今のところ、店の営業は月25日ぐらいがマックスですね。あと、まだまだ僕らも研ぎの技術に上があると思ってるので、そこを目指して練習をしています。
本田:狩猟は罠で獲っているの? その後どうしてる?
遊士丸:くくり罠で鹿を獲って、その後は生け捕りにします。加工施設を持ってるんですけど、山で屠殺してからそこに持って行くとすごく時間がかかるんです。おいしくて、きれいな味の肉を作ろうとすると、屠殺してから処理をして冷やし込むまでのスピードが大切なんです。僕たちは罠にかかった獲物を、その場で目隠しをして足を縛って運んで、加工施設の処理場の近くで半日から数時間ぐらい休ませます。その後、屠殺し、すぐに内臓を抜いて処理をして、氷に漬け込んで急冷します。お肉にするのはしっかり冷えてからです。 本田:それはどこで学んだの? 遊士丸:初めは地元の猟師さんに解体を教えてもらったんですけど、そのときのお肉が僕らとしてはクセが強くて苦手で。ただ、自分達は命を奪う瞬間を見ているので、大切にいただかないといけないというのがありました。どうやったらおいしく食べられるんだろうって考えていたときに、静岡の片桐 邦雄さんっていう猟師さんが書いた「ラストハンター」という本に出合ったんです。その中においしく獲るためには鉄砲で撃つよりも、罠で捕まえたものを生け捕りにした方が良いとありました。生け捕りにしてからお肉にしたら、食べたことのないような味で。ものすごく大変は大変なんですけどね。 本田:大変だよね。生きているんだから。 遊士丸:でもやっぱ獲るならば、おいしく食べたいので。急冷での冷やし込みとか、血抜きの工夫は、愛媛の漁師、藤本 純一さんっていう方のお話を聞いてからです。それまではジビエや魚では血抜きというのが大切というイメージがあったんですけど、すごく良い状態にした個体は血もおいしくて、逆に血抜きをしすぎると味もなくなってしまうとお聞きしました。冷やし込みや血抜きに関するテクニックは、魚の世界の方が進んでいたので、そういうところからもたくさんヒントをいただいています。