「毎朝1杯」のコーヒーが飲めなくなるかもしれない…じつは深刻な「コーヒーの2050年問題」をご存じですか
販売経路がなく、栽培を断念する人も
「これは秋田産です。かつてコーヒー栽培をはじめた人が各地にいました。この秋田産ティピカを栽培している人もそのひとりです」 栽培をはじめたものの、販売経路がなくて途中で断念。コーヒーをやめて儲かる作物に切り替えてしまった人が多いそうだ。 「秋田の農園主もやめることにしたそうです。今期のみコーヒーチェリーを引き取らせてもらいました」 秋田産ティピカのコーヒーチェリーを八千代で生豆に加工し、販売している。オーダーがあれば、焙煎したてのティピカをお客が自分で挽いて飲むことができる。1杯3,000円の秋田産ティピカは雑味がなく、キレがよかった。 「遠方からわざわざ飲みに来るコーヒー好きもいます」
北海道でもコーヒー栽培が開始
柳沢さんはコーヒーの2050年問題をどう考えているのか。 「どんな状況にあっても人間は工夫してきました。気候変動に強いコーヒーを開発したり、栽培地域をコーヒーベルト圏外に拡大したりすれば対応できると思っています」 暖房設備を完備すれば、コーヒーベルト圏外の日本でもコーヒーを栽培できることをジャパン・コーヒー・プロジェクトが証明している。そして2024年11月に北海道でコーヒー農園が産声をあげた。同プロジェクトに賛同する千歳空港近郊の農園が、コーヒー栽培をはじめることにした。 かつて北海道のコメは猫も食わないといわれていた。ところが、品種改良や栽培技術の進歩に加え、地球温暖化の影響もあり、北海道のコメは味も収量もいまやトップクラス。コメと同じように、広大な北海道でコーヒーを栽培できれば、近い将来メイドインジャパンのコーヒーを輸出できる日がくるかもしれない。
スペシャリティコーヒーこそが生き残る道?
小売店は、コーヒーの2050年問題をどう思っているのか。自家焙煎コーヒーを扱う「きたみcoffee」(千葉県八千代市)の北見義弘さんに話を聞いた。 「不安もありますが、スペシャルティコーヒーこそ個人店が生き残れる道だと信じています」 きたみcoffeeでは2015年の創業以来、スペシャルティコーヒーを販売してきた。単一原産地や単一農園産の最高級のスペシャルティコーヒーが、なぜ個人店の“救世主”となりえるのか。 「スペシャルティコーヒーは高値で取引されていますが、気候変動の影響で収量が減ればさらに高騰するはずです。でも、スペシャルティコーヒーの価値を理解しているお客様なら、ある程度の価格なら納得して買ってくれると思っています」 その根拠はどこからくるのか。 「高級品種のゲイシャを100グラム3,000円で300袋限定販売したことがありますが、完売しました」 味や香りが際立つスペシャルティコーヒーであれば、値上がりしたとしても飲みたい人は確実にいるというのだ。片や、一般流通品のコーヒーと、それを扱う店は厳しい状況に置かれるのではないかと北見さんは予測する。 「2050年問題で一般流通品のコーヒーを扱う店と、スペシャルティコーヒー専門店の差別化が図られるのではないかと思っています」 おいしいコーヒーを気軽に飲める時代がいつまで続くのだろうか。待ったなしなのかもしれない。
中島 茂信(フードライター)