「XRヘッドセット」を親が子に与える深刻事情 日本とは異なる独自の発展を遂げる「英語圏」
実際にゲーム内に入ってみると、明らかに低年齢の子どもたちが数多く活動している様子が確認できる。この現象は「Gorilla Tag」に限らず、前述したVRChatや、Meta社が提供するHorizon Worldsなどのメタバースサービスでも同様で、怪獣をカイユーと呼ぶなど、明らかに10歳未満と思われる舌足らずのユーザーが集まっていることがわかる。 この状況は、いくつかの興味深い問いを投げかける。なぜ英語圏では子どもたちのXRデバイス利用が進んでいるのか。また、従来のゲーム機とは異なる、このような利用傾向が生まれた背景には何があるのだろうか。
■アメリカにおけるXRデバイス普及の意外な背景 北米のXRデバイス市場において、予想外の推進力が明らかになってきた。VRゲーム開発者からの証言によると、北米のXRデバイス市場において、親たちが子どもたちにXRヘッドセットを積極的に購入する傾向が強まっているという。この現象の背景には、社会情勢の変化が大きく影響しているという。 この流れは新型コロナウイルスのパンデミックから始まった。外出制限下で、子どもたちは現実空間で会って遊ぶという、物理的な交友関係を制限されることとなったが、XRヘッドセットは彼らに新たな社会的つながりの場を提供した。実際に対面しているような感覚でコミュニケーションが取れる仮想空間は、閉じ込められた日々を送る子どもたちの重要な発散の場となったのである。
パンデミックが収束した後も、この傾向は継続している。その要因として指摘されているのが、治安への懸念だ。例えばアメリカでは法律により13歳未満の子どもの単独行動が制限されているが、それに加えて、治安の悪化により、親が子どもを外出させること、一緒に連れて歩くことへの不安が高まっているという。 このような社会背景から、XRヘッドセットは単なる娯楽機器を超えて、安全に社会性を育むための手段として、親たちに認識されているのかもしれない。物理的な制約や社会的リスクを回避しつつ、子どもたちの社会的交流を確保できるツールとして、XRデバイスは新たな役割を担いつつある。