変額保険の無料勧誘セミナーにご用心 NISA・オルカンと何が違う?
2. 株式などを対象に「長期・分散投資」をすると、お金が増えやすい。そして、変額保険は、保険加入者から預かったお金を「長期・分散投資」する仕組みである。 → 投資に「長期」「分散」が重要であることには異論ないが、加えて、「低コスト」であることが必須だ。金融商品を利用して投資を行う場合、各種の手数料は、確実に発生するマイナス要因だからだ。 そして、コストに注目すると「変額保険」は論外となる。そもそも、わずかな例外を除いて、販売手数料等の諸費用が開示されていないのだから、大人の常識で「怪しい」と判断したらいい。 具体的に推計できる例だと、毎月保険料を積み立てる場合、複数社の売れ筋商品で、保険料の20%超が運用に回らないと見られる(*1)。保険料を一括で支払う一時払い契約でも、契約初期に3%や5%程度の費用がかかる商品が珍しくない(*2)。 新NISAで人気の投資信託「eMAXIS Slim(イーマクシス スリム) 全世界株式(オール・カントリー)」(通称「オルカン」)の場合、諸費用(信託報酬)は0.06%未満だ。代理店の人が「お客さまの資産形成を妨げるのが、自分の仕事なのかと思ってしまいます」と言うのもうなずける。自分で投資信託を買えば、0.06%未満で済むコストが、投資信託で保険料を運用する保険に加入する場合、代理店手数料等を含む保険会社の仲介料でかさみ、その分、運用成果は下がるのだ。 ●「生命保険料控除」は必要か? 3. 変額保険には死亡保障もついていて「生命保険料控除」も受けられる → 変額保険が「老後資金準備」のための商品だとしたら、死亡保障がついてくること、生命保険料控除が受けられることは、メリットと言えないだろう。死亡保障は、掛け捨ての保険で必要な期間だけ持てばいいし、大半の単身者には不要だ。「死亡保障にかかる諸費用が発生する仕組みであるがゆえに、運用・積み立てに回るお金は少なくなる」と理解したい。また、生命保険料控除による節税効果より、高額な手数料のほうが痛い。 保険業界関係者の中には、変額保険に保障機能等があることを理由に「投信との単純比較は疑問」と語る人がいる。しかし、一般の人は「保険で資産形成をもくろむと、投信にない機能(資産形成とは直接関係がない機能)がある分、余計な費用がかかる」とシンプルに考えたらよいのではないか。 4. 変額保険に「特定疾病保険料免除特約」を付加すると、がんなどにかかって所定の状態になった場合、保険料払い込みが免除され、その後も保険料を満期まで払ったのと同じ条件で契約が存続する → 特定の疾病にかかった場合、保険料の支払いが免除され、契約が持続する特約は、保険ならでは仕組みに違いない。とはいえ、例えば、60歳までにがんにかかる確率は、男性で8%未満、女性で12%未満だ(*3)。90%前後の確率で60歳までに適用されないのであれば、特約目当ての保険加入は考えなくていいのではないか。筆者は、「おまけは悪くないとしても、そもそも、主契約が残念な仕組み」と認識している。 5. FP(ファイナンシャルプランナー)資格を持つ担当者が加入後もフォローする → これは要注意だ。フォローと称して、担当者から追加契約などを勧められる可能性が高いからだ。FP資格を持っていることと、相談者の利益を第一に考えることの間にも相関はない。 投資信託を販売する資格を持っていても、「資産運用に興味がある人には、迷わず変額保険を勧めている。販売手数料が安い投資信託を売るのでは儲からない」と言い切るFPもいるのだ。まして保険代理店に勤務しているのだから、優先順位は自明ということだろう。 代理店は、慈善事業をやっているわけではない。代理店にとって、セミナーの開催は、見込み客を増やすための先行投資なのだ。狙われる側の一般の方々には「無料だからこそ、高くつく可能性が高い」と警戒していただきたい。 *1 「20%超」という数字の根拠については、生保複数社のパンフレットに基づいて試算した記事「『NISAと保険のいいとこ取り』と販売員が薦める、変額保険の罠」を参照いただきたい。 *2 一時払いの変額保険については、生保複数社のパンフレットに記載のある、契約初期の「解約控除率」が、「契約初期にかかる費用」とほぼイコールであると見なした。なぜなら、「解約控除率」とは、中途解約時に保険加入者に払い戻しされる解約返戻金から、保険会社の取り分として「契約初期に発生した費用の未回収分」を差し引く仕組みである。従って、仮に「1年未満」の解約控除率が5%であれば、保険会社が「販売時に5%程度の費用が発生したので、この5%を取り戻せないと痛い」といった判断をしていると想像できる。一方で、投資信託では、販売手数料がゼロの商品も珍しくないのであるから、変額保険において「契約初期に発生した費用」の大半は、保険代理店などに支払われる販売手数料であろう。この点は、変額保険を投資信託と比べたとき、加入者にとって大きなマイナス要因になるに違いない。 *3 公益財団法人がん研究振興財団「がんの統計2023」参照(2019年のデータに基づく)
後田 亨