作家・朝井リョウ(35)「本来、小説が持つ武器を諦めたくなかった」あらすじを一切明かさずに売り出した『生殖記』に込めた想い
零れ落ちた部分を回収した今作品
――小説の着想やテーマ設定はどのように生まれてくるんですか。 言葉にする作業って、逆に言葉にできないことが決まるというか、線を引くことに近い作業だと思うんです。例えば、日本の法律だと責任能力がある年齢を「18歳以上」みたいに記す必要がありますね。 でも17歳の23時59分から人を加害し始めて、18歳になった瞬間も加害していて、相手が亡くなったのが18歳の0時1分だった、というようなケースも存在する可能性があるわけで、言葉にするっていうのは、そういう現象に線を引くことだと感じています。 小説を書いていると、書けば書くほど「今、線を引いたな」、「ここのシーン、この言葉でこう線引きするしかなかったな」ということが起きて、それらが毎作品書き終えるごとに小説の麓(ふもと)みたいな場所に溜まっているんですよね。それを次の作品で回収できないかな、みたいなことが、着想のひとつになります。 今回の『生殖記』は、書きながら、『どうしても生きてる』(幻冬舎)、『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)、『正欲』の麓に残っている言葉たちをもう少し拾えたら、と思っていました。 ――『生殖記』を書き終えてみて、まだ麓に残っているものはありますか? 今回は自分の中でたくさんのルール違反を犯していて、それによってこれまで拾えなかった言葉をかなり回収した気がしています。 ただ、今作は「物語の波に読者を乗せる」という部分が疎かになっているので、そこを重視して次回作を執筆中です。 #2へつづく 取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部
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