鹿児島県の芋焼酎、使う芋はどれも同じではない…品種へのこだわり・蔵元自ら畑作りで特徴ある風味
多彩な味わいや香りで多くの愛飲家たちを魅了している鹿児島県産焼酎。その魅力や酒造りに携わる人たちを紹介する。 【写真】「天狗櫻」を持つ白石代表。ラベルには芋の産地や混合割合が表示されている
近年、造り手の強いこだわりが込められた個性豊かな焼酎が注目を集めている。サツマイモの希少種を原料としたり、蔵元自らが畑作りから取り組んだりと、こだわり方はそれぞれ。特徴ある風味とともに地域に根ざした焼酎として人気だという。
薩摩川内市の「祁答院蒸溜所」が手がける芋焼酎「野海棠『いざなう』」は紫芋を原料とする。収穫後、温度管理をした貯蔵室で2週間ほど熟成させることで芋が軟らかくなるとともに糖度も上昇。バラやラベンダーのような香りや、芋の濃厚さを感じられる味わいを生み出している。
ただ、紫芋はサツマイモの生育不良を引き起こす伝染病「サツマイモ基腐病」の被害を受けやすい品種で、原料を確保しにくいといった面もある。そのため、生産量は4合瓶(720ミリ・リットル)換算で年間4000~8000本と年によってばらつきが生じるという。
芋焼酎は一般的に米麹や酵母を発酵させてできるもろみにサツマイモを加え、蒸留して造る。いざなうでは原料も麹も紫芋を使う。水分が多く管理が難しい紫芋を麹に使うのは手間がかかるが、杜氏の山下貴之さん(51)は「より芋本来の香りが引き立つ。芋麹を使うことで、すっきり軽快な口当たりも楽しめる」と話す。
“土地の味”にこだわった芋焼酎「天狗櫻」を造るのは、いちき串木野市の「白石酒造」だ。市内9か所の畑で15品種のサツマイモを自社で栽培し、原料の一部として使用している。
同酒造の代表で杜氏を務める白石貴史さん(46)によると、粘土質や砂地、水はけが悪いなど、土の特性によって収穫した芋に特徴が生まれるという。芋の品種や混合割合、栽培した土地の違いによって6種類の天狗櫻を製造。年間の出荷量は一升瓶換算で約4万本と大手メーカーに比べるとはるかに少ない。白石さんは「芋の生産から焼酎が完成するまで自らの手でこだわれるのは、小規模な蔵だからできることだ」と話す。