日本経済はこれからどう変化していくか…医療・介護産業が”日本最大の産業”になる日
医療・介護産業が日本最大の産業に
産業別の付加価値額に注目してみることで、この数十年間の日本経済の成長に貢献した産業が見えてくる。しかし、付加価値額が増加したから成長に貢献しているというのはやや誤解があるかもしれない。安い労働力を大量に利用し、効率性を高めないままにその産業の経済規模が大きくなったのだとしたら、それは必ずしも好ましい変化とは言えないからである。 この点でみれば、付加価値額に加えて、各産業にどのくらいの人が従事しているのかという視点も重要である。図表1-32は総務省「労働力調査」から各産業の就業者数の推移をみたものである。 就業者数に視点を移してみると、先ほどとは異なる光景が広がっている。まず、製造業に従事している人の数はこの20年ほどで減少している。2003年に1178万人いた製造業従事者は2013年に1041万人に減り、2023年も1055万人にとどまっている。20年間でみると10.4%の減少となる。この間、日本全国の就業者数は6316万人(2003年)から6747万人(2023年)と、6.8%増加していた。製造業の就業者が就業者全体に占めるシェアを算出すると、18.7%から15.6%まで低下している。結果として、現代においては日本の就業者の多くがサービス業に従事している。 製造業と並んで就業者数が多かった卸・小売業も2003年の1095万人から2023年の1041万人へと減少傾向にある。小売業界に関しては、過去、全国の各地域に張り巡らされていた専門個人商店が時代を経る中で消失し、近年ではコンビニエンスストアや大規模ショッピングモールが台頭している。また、ECサイトが普及し、大手アパレルでは商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合した製造小売(SPA)の業態が世界的にも広がるなど、卸売業の必要性が低下している。農林業(293万人→199万人)、建設業(609万人→485万人)なども減少が著しい。ここからは、多くの業界が限りある労働力を効率的に活用するための努力を継続している様子がうかがえる。 一方、就業者数が増加している業界も存在している。特に増加が著しいのは医療・福祉産業である。2003年の502万人から2013年に738万人、2023年には910万人と、この20年間で倍近く増えた。この20年間の医療・福祉産業の就業者数の増加数は408万人となるが、これは同期間の全産業の就業者数の増加幅(431万人)とほぼ同じ規模になる。近年、日本全体で増えた労働力のほぼすべてを、医療・福祉産業が吸収しているのである。 医療・福祉産業の就業者数の増加スピードは衰えることなく、この10年間ほどでみても年平均2.1%で伸び続けている。日本社会の少子高齢化の勢いはとどまることなく、このペースで医療・福祉産業が膨張していけば、2030年には日本で最大の雇用を抱える産業になるだろう。 つづく「日本企業は労働力を有効活用できているのか…「人口減少経済」でこれから起きること」では、生産性が低いサービス業に人が集まってしまっている実態を掘り下げる。
坂本 貴志(リクルートワークス研究所研究員・アナリスト)