財務省の「巧さ」が財政拡張派にスキを与えている
極論を言うと、すぐに発行する必要のない国債が、かなりの大きさで発行されていると言える。 この金額は、過去に国債を多めに発行してきたことの積み重ねによって蓄積してきた「貯金」と言える。財務省の国債管理政策上は、コロナ禍のように突如として国債発行を増やす必要が生じたときに、ある程度バッファーがあった方が良いという面はある。 しかし、このようなバッファーがあることによって債券投資のリスクが必要以上に軽減され、多少財政が悪化しても問題ない、という環境が常態化すれば、財政が弛緩していく誘因になるだろう。
前倒し債をゼロにすべきとは言わないまでも、前倒し債は最小限にとどめてできるだけ国債発行を減らすべきではないだろうか。 前倒し債が最小限であれば、補正予算のたびに国債の追加発行が必要になり、債券市場は身構えることになる。債券市場が財政悪化を嫌気して金利が上昇すれば、そのこと自体が政治的に財政健全化を促す要因になるだろう。 今回の約13.9兆円の補正予算によって必要な国債発行額(市中発行額)は約2.4兆円にとどまり、割引短期国債の増発だけで済んだ。債券市場の需給を悪化させる長期債の増発はなく、市場への影響はほとんど無風だった。
大型の補正予算がほとんど無風で消化されていくことが、次の大型の補正予算につながっていることは明らかである。 ■財政健全化を訴えているのに隙だらけ 財務省は、少なくとも建前上は財政健全化の必要性を訴えている。そのため、「103万円の壁」の問題でも、財務省が抵抗しているとみなされ「財務省SNSに中傷コメント急増、収束見えず 国民民主の躍進影響か」(毎日新聞)という状況である。 しかし、ここまで示してきたように、財務省の予算編成や国債発行の巧みさにより、自然と大型の補正予算に備えた動きが進み、結果的に財政健全化は進んでいない面もある。財政健全化派からは、財務省のスタンスが政治に隙を与え、財政健全化の弊害になっているという見方もできる。
結果的に、財務省は財政拡張派・財政健全化派の双方から批判される流れとなっており、孤立無援である。 解決策を見いだすことは難しいが、まずは補正予算の肥大化を防ぐべく、当初予算ベースで経済対策を盛り込み、補正予算の重要度を落としていく必要があると、筆者は考えている。
末廣 徹 :大和証券 チーフエコノミスト