財務省の「巧さ」が財政拡張派にスキを与えている
このことについて、大幅な財政出動でも「国債市場へのストレスを最小限に抑えることに成功した」と評価する見方もできる。 しかし、一定の財源の存在が前提となったことで必要以上に補正予算による財政出動が大きくなってしまった可能性や、国債市場にストレスを与えなかったことによって金利上昇という財政に対するアラートが発せられなかったことを考えると、中長期的には日本の財政にとって良かったのかどうか、疑問が残る。
国債発行が「巧妙すぎる」ことも、大型の補正予算の常態化につながっている。 特に、後者の金利上昇のアラートが発せられないことについては、国債管理政策が「巧妙すぎる」という「問題点」も影響している。 補正予算案では、公債金が約6.7兆円増額されたが、閣議決定と同時に公表された国債発行計画では、財投債など他の国債の発行が減額されたことで、国債発行総額の増加分は約5.5兆円にとどまった。さらに、定期的な入札によって発行されるカレンダーベース市中発行額はさらに少なく、約2.4兆円である。
なぜ約2.4兆円で済むのかというと、2024年度は第Ⅱ非価格競争入札(※)によって国債発行額が想定以上に発行が多くなっていたこと、前倒し債(前年度までに多めに発行していた年度間調整分)を使ったことがある。 ※通常の入札(価格競争入札)が終わった後、プライマリーディーラーが当該入札の平均価格で一定額分だけ追加購入できる。発行額が追加購入のニーズに左右されるため、当初の想定から国債発行額が大きく(または小さく)なる可能性がある。つまり財務省がコントロールできない。
確かに、第Ⅱ非価格競争入札による追加的な国債発行額を事前に予想することは難しい。しかし、財務省がコントロール可能な前倒し債が大きく膨れ上がっているという問題がある。 ■国債を多めに発行して貯金してきた 前倒し債については、財務省が公表している「債務管理リポート2024」によると、2024年度は約24.4兆円の発行が予定されているという。すなわち、2024年度中に発行される予定の国債発行総額(当初予算の段階で約187.5兆円)のうち、約24.4兆円は来年度の国債発行のために前倒しで発行するものである。