暗黒物質検出器「XENONnT」が稀なニュートリノ衝突現象の観測に成功
■稀なニュートリノ衝突現象「CEvNS」とは
今回XENONコラボレーションが発表したのは、XENONnTが検出した「ニュートリノ‐原子核コヒーレント弾性散乱(CEvNS)」と呼ばれる現象です。これはとても簡単に言えば、素粒子「ニュートリノ」が原子核と衝突する形式の1つです(※)。この説明には多くの専門用語を必要とするため、1つずつ解説していきます。 ※…正確には相互作用に必要なウィークボソンが介在しますが、今回は割愛します。 ニュートリノは主に、核融合や核分裂のような、原子核が変化する場で発生します。しかし、ニュートリノは物質と相互作用する確率は非常に低く、地球や太陽にぶつかっても大半がすり抜けてしまいます。このためニュートリノは、しばしば “幽霊粒子” という別名で呼ばれます。 ニュートリノが稀に原子核と相互作用する、つまり衝突した際に起こる現象は、ニュートリノが持つエネルギーによって異なります。ニュートリノのエネルギーが高い場合、ニュートリノは原子核を構成する核子の1つ(陽子や中性子)と反応し、お互いに粒子の種類が変化します(非弾性散乱)。大型のニュートリノ検出装置は、この反応で生じた粒子から発生する信号によって、ニュートリノを間接的に検出します。 一方でニュートリノのエネルギーが低い場合、原子核との衝突で起こる反応が異なります。エネルギーが低いニュートリノが原子核と衝突すると、核子の1つではなく、原子核全体と反応する「コヒーレント散乱」を起こします。衝突時のエネルギーは原子核全体に伝わる一方で、お互いに粒子の種類が変化するほどのエネルギーがないため、何も粒子の種類が変わらず、お互いの運動方向や速度のみが変化する「弾性散乱」を起こします。 弾性散乱はビリヤードの球をぶつけたような状況に例えられますが、今回の場合はニュートリノという極小の球を、原子核という巨大な球にぶつけた結果、原子核がほんのわずかながら動いたように見えるはずです。原子核の1つが動くと、周りの原子核との位置変化によって放射が発生するため、これを捉えることでニュートリノを間接的に検出します。これがCEvNSと呼ばれる現象です。 しかし、ニュートリノと原子核との質量差は極めて大きいものであり、CEvNSの検出は極めて困難です。いわばゾウに蚊が衝突した時のわずかなブレを見るようなものです。このためCEvNS自体は1974年に予言されていたものの、初めての検出は2017年に「COHERENT実験」によって達成しました。これは人工的なニュートリノ源による、高エネルギーなニュートリノで成功しました。