「メールの語尾」を理由に社員を解雇…裁判官にもしかりつけられた「ブラック企業のヤバすぎる実態」
減額に物申したら退職勧奨、そして解雇
しかし、Z社は減額分の賃金を支払おうとしない。支払わないどころか、入社から半年も経っていないのに、なんと退職勧奨を始めた。早すぎる。話を聞いても、退職する理由などない。私は、Aさんに絶対に退職勧奨に応じてはダメだとアドバイスをして、Aさんも頑張った。 すると、Z社は入社して7か月程度のAさんを解雇した。……早すぎる。……この会社は何でも早すぎる。解雇通知には「能力が不足しているため」としか書かれていない。 私は、Aさんに、解雇理由について具体的事実を示して明らかにするため、解雇理由証明書の交付を請求するようにアドバイスした。 しかし、Z社から示された解雇理由は「能力が不良で就業に適さない」「協調性を欠くことにより業務に支障がでている」という抽象的なものだった。よくあることである。 このような会社は、裁判や労働審判になってから解雇理由を具体的に出し始める。本当はそのような後出しジャンケンのようなことは許されるべきではないが、裁判所はなぜか許している(もっとも、訴訟などになってから出し始めても説得力がないことも多い)。 とにもかくにも、Aさんは、賃金減額と解雇は無効であるとして、裁判所に訴えた。 Z社から答弁書が出された。 「後出し」の解雇理由を見る。 予想したとおり、抽象的な「能力不足」が書かれている。しかし、ひときわ輝く(?)解雇理由があった。 「他の同僚に対し、語尾に『ござる』をつけたメールを送信して困惑させた」というものである。 「え、同僚に『ござる』を使ったら解雇?」 こちらが困惑した。瞬間、私はこの事件を「ござる解雇事件」と名付けた。別にふざけているわけではない。そんな理由しかあげられない酷い解雇であることの象徴である。Aさんが賃金減額にもめげず、会社に「はむかってくる」ことへの報復ではないか、そんなふうに推測した。
クビにしたい一心で作られる解雇理由
訴訟のなかでZ社は、「ござる」をはじめとしてAさんにコミュニケーション力がないことを取り上げてきた。顧客でなく同僚に対するメールで「ござる」を語尾につけるのが、なぜコミュニケーション力がないことになるのか、なぜ「業務に支障が出る」のかまったく分からない。嫌だったら、「『ござる』は付けないでください」と言えばいい。 私なんて、同僚に対するメールで語尾に「~でやんす」とか普通に使う。もちろん「ござる」もだ。 こんなことを解雇理由にすることに、ショックを受けた。むしろ、こんなことで解雇するほうが、コミュニケーション力がない。実際、Z社の経営者は、Aさんに対してパワーハラスメントを行っており、Z社の経営陣のほうにコミュニケーション力がないことが明らかになった。 訴訟では尋問も行った。Z社はAさんを辞めさせたいという目的ばかりが先行して、解雇理由はその後付けに過ぎないことが浮き彫りとなった。私は、経営者に対する尋問の最後に「こんな解雇してはダメでござるよ!」と言っておこうと思ったが、裁判官が経営陣を十分にしかりつけたのでやめにした。 訴訟は和解で終わった。賃金減額も解雇も認められないことを前提に、未払い分の賃金全額に加えて、○年分の賃金を支払うという内容だった。やっぱり言わせて欲しい。こんな解雇してはダメでござるよ。 さらに続きとなる記事<「よくわからない解雇理由」で社員を解雇したブラック企業に対して「裁判官が放った第一声」>もぜひご覧ください。
竹村 和也