センバツの勝敗分けた采配力…なぜ37歳の仙台育英・須江監督は明徳義塾の“馬淵マジック”を封じることができたのか?
実は、両監督の見えない戦いは試合前から始まっていた。須江監督は、最速147キロを誇るドラフト候補の背番号「1」伊藤ではなく、背番号「11」の2年生の左腕、古川を先発に起用した。東北大会での安定感を買ったものだが最初から継投策をプランニングしての投手起用だった。 「試合前に苦しいところで行くと(伊藤に)話をしていた」と須江監督。 だが、馬淵監督は、その古川の先発を読んでいた。 「おそらく、向こうの先発は左の古川君。ロースコアの試合になると思うので、終盤までぴったりくっついていきたい。そうでないとうちに勝ち目はない」 そして数々の修羅場を踏んできた馬淵監督もまた、須江監督同様、ロースコアの勝負になることを覚悟していた。 だが、先制点を仙台育英に取られ、反撃の糸口もまた須江監督の絶妙の継投策で断たれ、“馬淵マジック”を封じられることになるとは考えもしなかったのだろう。 プロが見習うべき継投のタイミングだった。 須江監督は、4回一死一、三塁のピンチを招くと5番・加藤愛己に対しては古川を続投させた。勝負をさせ、外角の変化球で空振り三振に打ち取り、二死一、三塁となって、代木を迎えたところでエースの伊藤を投入した。 「伊藤は文句なしのエース。明徳の打者は予想していたよりも積極的だった。古川にはもう少し投げてもらおうと思っていたが、代木君の第1打席の当たりが良かったので交代を決断した」 代木の第1打席はライトフライだったが、須江監督は、その打席を見て古川にはタイミングが合っていると分析していたのである。 プロ注目の右腕、伊藤は期待に応えた。ストレートを軸にアウトコースにボールを集めてカウントを追い込むと、最後は145キロの直球をアウトコースに投じた。代木のバットにかすったが、ファウルチップはミットに収まっていた。紙一重の勝負である。 ここからは、最速146キロのストレートを武器に77球のノーヒットショー。 明徳の反撃を許さなかった伊藤は、「出来すぎです。甲子園は自分の力以上のものを出させてくれる。古川がつないでくれたし、要所を締めることができた。練習試合から先頭打者を打ち取ることを心掛けてきた」と胸を張った。