「見習うべき国」とされるドイツを「反面教師」に
◇環境偏重の非現実的な経済政策、安易なビジネスモデルが悲惨な現状に 政策面にも問題があります。今のドイツの政権は、信号連立と呼ばれています。これは、労働組合に支えられた社会民主党の「赤」、自由主義経済を是とする自由民主党の「黄」、環境保護を最優先する緑の党の「緑」というそれぞれのイメージカラーを持った、本来の政治方針で相互に重なる部分が多いとは言えない3つの政党が連立を組んだ状況を表現するために作られた言葉です。これら3党は、お互いに政策で一致することが少ない状態で連立を続けています。しかも「緑」が経済担当の大臣に就いているため、理想に走りすぎた環境政策が行われ、あらゆる混乱を招いています。 境保護の観点からも以下の問題点が指摘されます。ドイツ国内では火力発電も原子力発電も公式にはやめていますが、クリーンエネルギーはこれらエネルギーに比べて高価です。従来は天然ガスを中心とした安いエネルギーをロシアから輸入してどうにかしていましたが、ロシアのウクライナ侵攻開始後に供給がストップした瞬間、電気代をはじめとする家計向けのエネルギー価格が大きく跳ね上がりました。このように、組織的にも技術的にもエネルギーのコストを抑える能力がなくなってしまっていて、そのしわ寄せがすべて国民に押し付けられたわけです。しかも原発も駄目だと言っておきながら、原発大国であるフランスから原子力で発電された電気を購入しているのも大いなる矛盾です。 また、EUの方針もあり、環境保護のため、化学肥料の使用を50%削減するという目標も掲げられました。さらに農業用の機械で使われているディーゼル油は、これまで農業政策の観点から減税されていましたが、これをやめると言い始めたのです。ただでさえ燃料費が上がっているなかでのことです。農民たちの怒りが爆発し、2023年12月以降は、減税廃止に抗議する農業団体がデモンストレーションのためにトラクターで道をふさぐような事態も起こっています。 一方、2023年の秋に行われた地方選では、いわゆるポピュリズム政党と言われる「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進しました。これも、現地の肌感覚だと理解できないことではありません。というのも、これまでドイツで展開してきた政治に関して、有権者は、自分たちの声を聞いてもらえていないという思いが強いようです。この選挙期間に街中に貼られた選挙ポスターには、「我々は声なき声を聞きます」「今の政党政治に反映されていない皆さんの声を丁寧に聞いて、政策に反映させます」といった内容が書かれていました。こういう風景を見ていると、AfDに人気が集まっているのも、わかるような気がします。