なぜ井岡一翔は苦闘のV1成功後にリング上で号泣したのか?「この先(のボクシング人生)は長くない」
ボクシングのトリプル世界戦が31日、大田区総合体育館で行われ、WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは、4階級制覇王者の井岡一翔(30、Reason大貴)が、同級1位の指名挑戦者、ジェイビエール・シントロン(24、プエルトリコ)を3-0判定で下して初防衛戦に成功した。足を使われ、クリンチを多用されて仕留めきれなかったが顔を腫らしながらも最後まで前に出てファイティングスピリットを示し、プレッシャーと父としての責任を果たした解放感からかリング上で号泣した。2020年は他団体王者との統一戦実現を最優先に元4階級制覇王者、ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)を第2候補にビッグマッチにチャレンジしていく。
被弾覚悟で前半戦を捨てる勇気ある戦術
試合終了を告げるゴングと同時に両手を突き上げた。 くしくも、シントロンも同じ行動をとっていた。 「出し切ったと思った。後悔はキャリアの2敗。1-2(判定)で割れて、あと味の悪い負け方をした。勝ち負けは大事だが、一番は出し切ること。この先(のボクシング人生)は長くない、終わりにさしかかっている。だからこそ出し切ってやり切れば、負ければ納得はできないが、あまり“たらればは“ない。出し切ったし勝ったとも思った」 井岡のキャリアの2つの黒星、2014年5月に3階級制覇に最初に挑戦したIBF世界フライ級王者、アムナット・ルエンロン(タイ)との試合と、昨年の大晦日、ドニー・ニエテス(フィリピン)とのWBO世界スーパーフライ級王座決定戦は、いずれも1-2のスプリットテジションでの敗戦だった。 悔いなく戦うーー。自らに誓った美学を果たせたという満足感が、井岡に両手を突き上げさせたのだという。 苦闘だった。1ラウンドから、低い姿勢を保ち、サイドへのまるで甲殻類のカニのような動きを見せながら歩くようにつめる。インファイトを教えたら天下一品のイスマエル・サラス・トレーナーが伝授したシントロンのステップワークを封じ込む戦略だった。 「フェイントをかけながら一直線でなくサイド、サイドから追う」 しかし序盤は距離感をつかめず肝心の手が出ない。 逆に遠くからの左ストレートをまともに痛打、2ラウンドにはアッパーを浴びた。早くもラウンド間、名カットマン、“スティッチ”ことジェイコブ・デュラン氏の目元を器具で冷やす作業が慌ただしい。 3ラウンドには動きが止まったところにコンビネーションをまとめられた。口から血を噴出。井岡は明らかに戸惑っていた。 「相手の距離も長かったし、想像以上にスピードが速く、タイミング、テクニックも素晴らしかった。想定よりも」 ジャッジのうち2人は。1ラウンドから4ラウンドのすべてをシントロンにつけた。 だが、この苦しい序盤戦は、井岡の“死んだふり作戦“だった。 「やる前から思っていた、4ラウンドは最悪(相手に)あげても、空振りさせて体力を削ろう。そこから残り8ラウンドを取れば勝てる」 被弾覚悟で前半を捨てたのである。 あえて自らの身を犠牲にして距離感をつかみ、プレスをかけ続けることでシントロンの消耗を誘った。勇気ある戦術である。 「序盤に結構(パンチを)もらい出したときに覚悟を決めました。少々もらっても(前に)いくしかない」 それでも「パンチ? なくはない。でも無茶苦茶効いてはいない。僕も打たれ弱い方じゃないから。僕と同じくメキシコ製のグローブ(エバーラスト)。むちゃくちゃ痛かった」と言う。