【ひねもすのたりワゴン生活】滋賀から城崎、そして神戸 5日間1500㎞のクルマ旅 その10
城崎温泉に着いたのは夕方だった。とはいえ、日暮れはまだ先で、街は明るかった。この温泉街は、中心を流れる大溪川に沿って伸びていて、主要な旅館はその両岸に連なっている。木造の三階建が多く、それが独特の風情を醸し出していた。この日の宿は、川の上流エリアにある「つたや」。予約が直前だったため、いくつかの宿で断られ、ようやく部屋を確保できたのだが、そこが偶然にも江戸時代末期、禁門の変で敗走した、長州藩の一員である桂小五郎(木戸孝允)が身を隠した宿だったのである。やはりここも木造の三階建て…昔の建物なので、エスカレーターはなく、高齢者には不適な宿かもしれないが、古風な部屋の窓から眼下の通りを眺めながら桂が活躍した時代に想いを馳せるのはなかなかロマンチックだ。館内には、彼に由来するさまざまな収蔵品や資料が展示されており、歴史好きにはたまらないだろう。
さて、城崎温泉の魅力のひとつに外湯巡りがある。個性豊かな七湯…鴻の湯(こうのゆ)、まんだら湯、御所の湯、一の湯、柳湯、地蔵湯、さとの湯が、徒歩で僅か15分ほどの範囲に散在しているのである。多くの宿では、これら外湯のフリーパス券を渡しているので、宿泊者は自由に湯浴みを楽しむことができる。七湯それぞれ魅力的な温泉で、アイランドホッピングのように巡っていくのが城崎の魅力だが、浴衣姿のままで川沿いに連なる古風な宿々を眺める散歩がこれまた楽しい。カフェやビアホール、軽食店もあるので、立ち寄りながら回るのも一興だ。温泉好きを自認する私だが、外湯巡りというとなんとなく面倒くさくて、これまでは回ってもせいぜい1、2ヵ所だった。しかし、ここではなんだか胸が躍って、気がつけば5湯を訪ねていた。おそるべし城崎温泉。
締めくくりは御所の湯で、外に出た時には18時近くになっていた。さすがに疲れを感じて、ここで外湯めぐりを終えることにしたのだが、実はこの日、私たちは大きな問題を抱えていたのである。夕食の目途が立っていなかったのだ。前記のとおり、間際になって予約を入れたものだから、食事付きプランが残っておらず、この日は素泊まりとなった。私たちの旅ではそんなことは珍しくなく、いつものようにブラブラしながら行き当たりばったりで目についた店の暖簾を潜ればいいのだけれど、それに黄色信号が灯っていたのだった。