[MOM5004]堀越FW三鴨奏太(2年)_「取れるだけ取っておこうかなと」圧倒的“スター性”示した4ゴール2アシスト
[1.2 選手権3回戦 松山北高 1-6 堀越高 駒沢] 小学6年生の心に突き刺さった「スター性がない」というJクラブアカデミーからの評価――。人づてに聞いたというその言葉に奮起し続けてきた堀越高のエースFW三鴨奏太(2年=FCオーパスワン)が、全国高校サッカー選手権の大舞台で4ゴール2アシストという結果を残し、圧倒的な「スター性」でもって駒沢の観客を魅了した。 【写真】「イケメン揃い」「遺伝子を感じる」長友佑都の妻・平愛梨さんが家族写真を公開 地元東京で迎える注目の一戦。堀越の10番を託される2年生エースは、いくらゴールを奪っても、どれだけアシストを挙げても、攻め手を緩めるつもりはなかった。「乗っている日は取れるだけ取っておこうかなと」。そんな言葉どおりの大活躍の口火を切ったのは0-0の前半7分だった。 中盤でボールを持った三鴨は相手のプレッシャーを受け、一度は後ろを向いてキープを選択したが、相手の足が止まるやいなやドリブル突破をスタート。「相手が全然来なかったので一回仕掛けてみようかなと」。前進しながらMF渡辺隼大(3年)とのワンツーを行い、ペナルティエリア右に侵入すると、最後は飛び出してきたGKをあざ笑うかのようなループシュートでネットを揺らした。 前半4分のファーストチャンスでは芝に足が引っかかり、シュートを打てずに悔いを残していた三鴨。「足を振ったら芝が深くてふかすと思ったので、浮かすのが一番かなと思った」。天然芝の環境に適応した技ありシュートで冷静に先制点を奪った。 そして「そこからリズムに乗れた」という三鴨。あとは全てのチャンスをゴールに沈め続けた。 続いては前半16分、MF杉村充樹(2年)からの横パスをバイタルエリアで受けると、約25mの距離がありながらも迷わず左足一閃。「もう前が空いたので。1点目で乗っているんで、とりあえず打ってみようかなと思った」。グラウンダーのシュートはゴール左隅へ。「あの2点目が入ってからは今日は自分の日かなと思って、そこからもう乗れたかなと思います」。気持ちは高まるばかりだった。 もっとも、そこでエゴイストに走らないのが三鴨の真骨頂。前半25分、DF竹内利樹人(3年からの浮き球パスに反応し、ペナルティエリア内にフリーで抜け出したが、選択したのは強引なシュートではなく、後方への落としの左足パスだった。「強引に行くのは自分のプレーじゃないし、しっかり判断できるのが自分の特徴」。これをFW高橋李来(2年が右足で決め、アシストもついた。 1点を返された直後の前半34分には、ふわりとした右CKでDF森奏(3年)のヘディングシュートをお膳立てし、2アシスト目。「今日の相手はそんなに背が高くなかったので、奏が競り勝てると思った。最初のプレースキックが(ファーに)流れてしまって、そこで『高いボールなら競り勝てる』と奏が試合中に言っていて、それに合わせてみようと思ってふんわりしたボールにしたら決めてくれてよかった」。チームメートからの助言に満点回答で応える精度が光った。 さらに前半39分、右サイドで高橋と竹内が連係する間にゴール前へ走り込み、竹内のアーリークロスにヘディングで合わせ、ハットトリックを達成。「試合中に『自分の日だな』と思っていたので、李来と竹内には『お膳立て欲しいな』と話していた」。2アシストを味方にプレゼントしていたからこその3点目となった。 そして後半6分には途中出場MF田中豪(2年)からのクロスを完璧なトラップで収め、左足シュートで仕上げの4点目。その後は「もっと行きたいなという欲が出てしまった」と途中出場の周囲との連係が合わない場面も続き、最後は「無理して出るよりも出ていない選手に渡す意味でも、次の試合のことを考えて自分が代わろうかな」とボトムアップ体制の指揮官を務める竹内主将に交代を申し出る形となったが、圧巻の4ゴール2アシストという結果を残して後半29分にピッチを去り、駒沢8強決戦の絶対的主役となった。 6ゴールへの関与もさることながら、注目すべきは得点に関わるパターンの多彩さだ。利き足の右足での1ゴール2アシストに加え、左足でも2ゴール1アシストを導いており、さらに頭でも1ゴール。特に逆足の左足のキックは右足と遜色ないどころか、異なる個性を持つ“もう一つの利き足”のようなインパクトを放っていた。 三鴨によると、異色の左足キックは“怪我の功名”なのだという。「左足は小さい頃から蹴れたほうだったけど、中学2年生の時に右足三角骨の手術をして、その後もずっと痛かったので左足で1年弱プレーしていました。左足が上手くなるチャンスかなと。メッシが好きなんで、その左足のイメージで(笑)」。そう苦笑い気味に振り返る努力はいまや、相手に狙いを絞らせないプレースタイルを支える原点となっている。 また三鴨の過去にはもう一つ、欠かせないエピソードがある。 三鴨が地元足立区の街クラブ「FCオーパスワン」のジュニアからジュニアユースに進む際、あるJクラブアカデミーのコーチから「スター性がない」と評したのを人づてに聞き、中学時代はその言葉にコンプレックスを持ちながらも、逆に反骨心に変え、努力の3年間を過ごしてきた過去を持つ。 「あの時はけっこう、落ち込みましたね」。いまではさらりと振り返る三鴨だが、その言葉が駒沢の観客を魅了した4ゴール2アシストにつながったのも事実。大会前の『ゲキサカ』インタビューでは「自分のスター性、自分にしかないものは何だろうというのはずっと探してきたつもりで、今になっても別に答えは出てるわけではないですけど、この大会(予選)の活躍を見てくれて、色々な方が目を引いて下さるようなプレーをできているのは一つ個性があったのかなと思っています」と話していたが、全国舞台でもまた一つその実績を重ねることとなった。 もっとも当の三鴨自身、この日の4ゴール2アシストという記録的な大活躍にも、手放しで満足しているわけでもなさそうだった。 「その言葉を見返すような活躍ができているのでは?」という問いにも、「今日の試合だけで言ったらそうですけど、全然納得していない」ときっぱり。「チームとしても1失点は見つめ直していかないと絶対に次は負けるし、6得点というのも逆に外したプレーのほうが全然印象に残っている。他の選手も決められたシーンはいくつもあった」と課題に目を向け、「決めたシーンは再現性あるし、もういいんで、決められなかったプレー、やられてしまったところを意識して次の試合に臨みたいです」とすでに次の試合を見つめていた。 だからこそ、現状の個人成績にも一喜一憂するつもりはない。この日の4ゴールで今大会通算5ゴールとし、すでに敗退した日章学園高FW高岡伶颯を上回って得点ランキング首位に立ったが、「全く意識していない。始まる前もそうだし、今もそうだけど、得点王になりたいと思っていない」と言い切った。 「チームが勝てることが一番。これからいろんなストライカーが自分の得点に感化されて、いっぱい点を取ってくると思う。一番は淡々とプレーをして、目の前のチャンスをしっかり刺し切れば、得点王もあるとは思うけど、そこは全く意識していないし、正直どうでもいいので、チームが勝てることが一番」 まずは他のストライカーとの“相対評価”で与えられる得点王よりも、チームにおける自らの仕事に集中していく構えだ。 「得点王は自分じゃどうにもできないので。例えばいま(第2試合で)オノノジュ慶吏(前橋育英)が2点を取っていますけど、これ以上取らせないというのは自分にはできないことですよね。だから目の前の試合で自分は結果を残すこと、チームが勝つことにフォーカスできれば。それで自ずと得点王というのも見えてくるのかもしれません」(三鴨) 淡々と、着実に――。その姿勢はこれまでも、これからも変わらない。自身の3年間の成長にも「結果がついてきたこと」と述べるのみで、「取り組んできたこと、イメージしていることはサッカーを始めてから本当に変わっていないし、今年はそれが結果に出てきていることだけ」ときっぱりと話した三鴨。「これからも取り組むこと、取り組む気持ちは全く変わらないし、それがもっと結果につながってくれば飛躍につながってくると思う」。ここからも自然体でピッチに立ち続け、昨年に続く国立4強、そしてまだ見ぬ日本一に一歩ずつ近づいていくつもりだ。