Media Briefing[日本版]:「ニュースが ブランドセーフティ を脅かしている」という指摘に反論はできるか
「ブランドセーフティ」という概念、もしくは仕組みや機能が広告主にとってどれほど大きな意味を持つのかを知りたければ、11月中旬から立て続けに起きた、大手広告主によるXへの広告出稿停止騒動を振り返ればいい。 10月15日、イーロン・マスクは自らが所有するXで、反ユダヤ主義的な投稿に賛同するようなコメントを投稿し、このポストはその後広く拡散した。同16日にはメディア監視団体のMedia Mattersが「XでAppleやIBM、Oracleなどの企業の広告が、ヒトラー賛美やホロコースト否定投稿と並んで表示されている」と報告した。これを受けて、IBM、Apple、Disney、Warner Bros. Discovery、Lionsgateらは、Xへの広告出稿を停止した。Twitter買収以降の混乱にもかかわらずXでの広告出稿を続けていた、辛抱強い広告主たちですら、ブランドセーフティが脅かされたとき躊躇なく停止する。それほどの意味を持つものなのだ。 では、同じことがパブリッシャーの有するメディア上で起きた場合、「ニュースがブランドセーフティを脅かしている」と言われたときどうすべきなのだろうか。ソーシャルメディア上での投稿とメディアの報道では、同じデジタルコンテンツでも意味合いは異なる。しかし、「ブランドを毀損する可能性がある」という文脈の上では実のところ大差がない。自然災害のニュースですら、「ネガティブ」だと警戒されるのだ。イデオロギーが深く影響している紛争のニュース、特定の人種が関係しているニュース、企業名が大きく報じられる事件・事故などであれば、言わずもがなだろう。
昔からあるブランドセーフティ問題
ニュースと広告のブランドセーフティをめぐる議論自体は、目新しいものではなく、大体はブランドスータビリティの重要性を謳う形になる。ただし、メディア企業各社が広告収益の低下と市場の不確実性に晒され、人員削減に取り組まざるを得ないような状況下では、「昔からある話」で済まされない。 G/O Mediaが有していたフェミニズムなど女性に焦点をあてたニュースや解説で知られるメディア「イゼベル(Jezebel)」は、11月第2週に閉鎖された。同メディアの暫定編集長を務めていたローレン・トゥーシニャン氏は、「ブランドセーフティ」が主な要因だと親会社から告げられたと述べている。イゼベルの広告枠への出稿に対する広告主の懸念が背景にあったという。 ブランドにとって重要なのは、消費者がそのブランドと関連づけるイメージや印象だ。したがって、人々にネガティブな印象や不安を抱かせるようなコンテンツが掲載されたサイトでの広告配信を避けるという意味での「ブランドセーフティ」は理解できる。しかし、ニュースコンテンツに関してネガティブな内容の記事に隣接してブランドの広告が掲載されていたとしても、それを気にする読者がいるという確かな証拠はない。その種の広告がブランドイメージの毀損につながるという懸念は、証明された事実というより、既知の情報にもとづく推測にすぎない。さらに、現状の「キーワードブロック」や「セマンティック技術」といったブランドセーフティ対策は、「リスクがあるか否か」ではなく、「適切なメディアか否か」という判断基準に基づいて機能する。安全でないメディアを回避するだけでなく、ブランドのメッセージに合致した場面も回避されてしまう可能性は十分にある。 こうした事実に基づくなら、「ニュースブロックやニュースを理由としたブランドセーフティの議論に正当性はない」という主張は受け入れられそうだ。しかし、ブランドセーフティ自体はマーケターやブランドの「不安」に基づくものであり、「証拠はない」ことが出稿を停止しない理由にもならない。まるで禅問答だ。