Media Briefing[日本版]:「ニュースが ブランドセーフティ を脅かしている」という指摘に反論はできるか
「ニュースは大切」で解決しない矛盾
さらに根本的な問題が、すべてのメディアがニュースメディアではないという点にある。デンマークの大手ニュースメディアであるEkstra Bladetの広告販売/テクノロジー部門ディレクター、トマス・ルー・ライゼン氏は「ブランドセーフティを広告出稿可否の主な判断基準にされたら、パブリッシャーは軒並み打撃を受けるだろう」と指摘する。そうだろうか? もしパブリッシャー全社が同様の苦境に陥っていたら、「広告主が歩み寄ってパブリッシャーを支えるべきだ」という意見の一致を見たはずだ。 広告主がブランドセーフティに基づきあるメディアを拒否しはじめると、「安全ゾーン」とみなされたメディアの広告料金が上昇する。結果として、広告の効率低下やオーディエンスへのリーチが狭まるというデメリットが生じる可能性もあるが、少なくとも広告主は「安心」を得ることができ、安全とされたメディアは広告収益を手にすることになる。ここでは特に誰も苦境に陥っていない。 「広告主にとって最近、多様性、公平性、包摂性やサステナビリティが優先事項になっているのと同じように、ニュースは今後、必要不可欠なメディアになると思う」と、ニュース報道を信頼性とバイアスの観点から評価するスタートアップ企業、Ad Fontes Mediaの最高戦略責任者であるルー・パスカリス氏は語っている。確かに一理ある指摘ではある。例えば米国では気候変動関連の自然災害がしばしばニュースになるが、多くの広告主が気候変動報道に自社広告が掲載されないようフィルタリングをしているという。サステナビリティやそこへの自社の取り組みについては語りたいが、実際に影響を及ぼすようなニュースに広告が囲まれる事態は望まない、いわば「偽善」だ。 だが、上場企業の場合、行動の帰結として株価に影響が及ぶ場合もあるだろう。なにより、ブランドセーフティに関するツールは広告主に提供されているだけでなく、パブリッシャーにも提供されている。報道やニュースの意義を説くだけでは、解消しがたい問題がここにはある。 あなたがもしニュースメディアの人間で、「あなたたちが扱うニュースの内容に懸念があり、広告出稿を差し控えたい」と広告主から告げられたとき、どう応えるだろうか。