「イーロン・マスクはアントレプレナーシップを学んだのか?」...アメリカの大学で10年以上教えたからこそ分かる「起業家教育」の意義
近年注目が集まっているアントレプレナーシップ。「起業家精神」と訳され、高い創造意欲とリスクを恐れぬ姿勢を特徴とするこの考え方は、起業を志す人々のみならず、刻一刻と変化する現代社会を生きるすべてのビジネスパーソンにとって有益な道標である。 【漫画】頑張っても結果が出ない…「仕事のできない残念な人」が陥るNG習慣 本連載では、米国の起業家教育ナンバーワン大学で現在も教鞭をとる著者が思考と経験を綴った『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』(山川恭弘著)より抜粋して、ビジネスパーソンに”必携”の思考法をお届けする。 『バブソン大学で教えている世界一のアントレプレナーシップ』連載第7回 『起業は冒険と同じ! …「大航海時代の探検家」と現代の「起業家」に共通する「3つの分類」を企業経営に活かす方法』より続く
アントレプレナーシップは学ぶものなのか
そもそも、アントレプレナーシップとは学ぶものなのか、教えるものなのか? という問いも見えてきます。アントレプレナーシップが純粋に、その「精神性」にのみ由来するならば、それは教えるものではなく、示すものであるはずです。精神性は不可欠ですが、行動することも同様に欠かすことができません。 イーロン・マスクは、アントレプレナーシップを学んだのか。ジェフ・ベゾスは? スティーブ・ジョブズは? 松下幸之助は? 本田宗一郎は? おそらく、体系的に学んだことはないでしょう。そもそも学問として体系化された歴史も浅いのです。大学で学ばず、まったく違う分野の勉強をして起業家として成功するケースも珍しいものではありません。自力でエネルギッシュにどんどんアイデアを生み出し、起業をし続ける人もいます。 これはとても重要なテーマであり、私の存在意義にも関わってきます。
世界を変える冒険者を育てる
アントレプレナーシップ教育の意義の一つは、「世界を変える冒険者を一人でも多く世に送り出すこと」だと感じています。世界中に溢れる問題に触れること、それは日常の些細な問題でも構わない。目の前で困っている人を救う心を養うこと。根底にあるのは課題解決であり、起業とは一つの方法に過ぎない。そのために身につけるべき、解決方法(アイデア)の出し方、磨き方、実現するために必要なリソースのつくり方、資金、仲間の集め方、彼等とのコミュニケーション、組織をつくり運営していくメソッド…。 先人たちが残してくれたさまざまなノウハウがあります。生み出された手法があります。誰もが知っている成功者たちの陰にいる、志半ばで諦めざるを得なかった人たちも、「学ぶことができる素養」が身についていれば、成功に近づけたかもしれない。 そういったことを学ばずとも、できてしまう人もいます。欠けている部分を埋めてくれる人に出会った人、マイナス面は関係なく、突き進むことで成功した人もいるでしょう。しかしそうではない人たちだって、「学ぶことで成功確率を上げること」はできたはずです。 もう一つの意義は「気づき」を与えることです。たとえば私の講義を受ける学生の中で、「俺は世界を変えてやる!」と押しが強い学生ももちろんいます。しかし、数ある講義の中で、なんとなく受けてみた。ちょっと面白そうと感じた。そんな学生も多数います。でも、その中にも、実際に卒業後に起業家の道を進んだ学生、起業家ではなくても関連するビジネスの道に進んだ学生はいます。 起業家なんて雲の上の世界の存在。自分とは関係ない世界の話、そんなふうに多くの人は感じているでしょう。でも、私の講義を通じて、刺激を受け、気づき、起業家の道に入る。それを応援、支援する道に入る。いえ、普通に就職したとしても「起業家のような思考」を持ち「起業家のように行動する」ことを学んだ人は、目の輝きが違います。自分の人生に対して、意思を持ち、自信を持って前進していきます。挑戦し続けます。 『「ビジネスは一人ではできない」...マイクロソフトやビートルズが示す「バディ」と「チーム」の必要性』へ続く
山川 恭弘