SBI北尾会長が語ったサウジ交渉「2カ月半」:リヤドが目論む次世代のデジタル王国【2024年始特集】
半導体工場、暗号資産、ステーブルコイン、ゲーム、大阪デジタルエクスチェンジ(ODX)、サウジアラビア……世界経済の成長の源泉となる領域で大胆に仕かけるSBIホールディングスは昨年、幾度となくビジネス誌を賑わせた。 なかでも、SBIがサウジアラビアの国営エネルギー会社「アラムコ(Aramco)」と結んだ業務提携に向けた合意が具体化すれば、半導体だけでなく、金融やデジタルアセット、ブロックチェーン、ゲームなどあらゆる業界にインパクトを与えることになる。 サウジはオイルマネーで潤ってきた王国だが、現在「サウジ・ビジョン2030 (Saudi Vision 2030)」と名づけた国家戦略を掲げ、国家のデジタル化を徹底的に進めながら、金融、ヘルスケア、産業創出、教育、人材育成、都市・住宅開発、投資などのあらゆる分野で次世代の王国の基盤作りを加速している。 北尾吉孝 会長兼社長率いるSBIはいかに、時価総額2兆ドル(約290兆円)を超える世界最大のエネルギー会社アラムコとの交渉を進めたのか? 東京・六本木にあるSBI本社の会議室で、北尾氏に話を聞いた。
北尾氏のサウジ外交、場所は日本
──SBIが2023年に発表した案件の中で、アラムコとの基本合意は特に注目している。半導体工場の建設や、デジタルアセット領域での業務提携が具体化すると、グローバルにインパクトを与えるものになると想像するが? 北尾:僕は2カ月半の間、50~60人のサウジの人たちに対して徹底的に外交してきた。幸い、先方が(日本に)来てくれた。大臣が来たりもした。どうして彼らはそこまで力を入れるのかということだ。 (1970年代の)オイルショックの時、僕はサウジによく行った。当時は野村證券に勤務していた時期だが、世界の金がサウジやクウェートなどに集まっていた。その資金を還流することはできないだろうかということで、日本株や日本の債券を売る仕事をやっていた。 その時以来、サウジやクウェート、アブダビとの縁が切れてしまったが、また復活してきたわけだ。そして、過去を凌駕するほどの資金が中東に集まり、中東の社会のあり方が大きく変わってきた。特にサウジの社会変革は大きく、これをけん引しているのがムハンマド皇太子(ムハンマド・ビン・サルマン皇太子)だ。 例を挙げると、サウジの女性たちの生活は、西側諸国に比べれば、あらゆる面で制限があった。しかし、今では自動車を運転することや、働くこともできるようになってきた。当然、国の労働人口は増え、サウジの経済構造は大きく変わっていく。 アラムコ(Aramco):2019年にサウジ証券取引所に上場し、当時時価総額で米国のAppleを抜いて世界一の企業となった。その後、石油化学大手のサウジ基礎産業公社(SABIC)の株式の過半数を取得し、事業の多様化を図った。2022年度の年間売上高は約5350億ドル(約77兆円)で、約1610億ドル(約23兆円)の純利益を計上。日本が輸入する原油の約38%はサウジ産で、アラムコが石油元売り各社に販売している。 SBIの半導体工場の建設計画:SBIと台湾のPSMC社は2023年10月、宮城県黒川郡大衡村を半導体ファウンドリの建設予定地に決定。既に日本国内での半導体ファウンドリ設立に向けた準備会社「JSMC」を設立し、工場の建設地の検討を進めてきた。SBI、PSMC、JSMC、宮城県は、政府から一定の補助金を得ることを前提として、工場の建設に向けた合意書を締結している。ファウンドリとは、半導体の製造工場及び、発注元の半導体メーカーから設計データを受け取り、その設計に沿って半導体チップを製造する企業のこと。 アラムコとの基本合意:SBIとアラムコは現在、3つの項目での業務提携を検討している。①日本とサウジアラビアにおける工場の設立などの半導体領域への投資に関して、具体的なプロジェクトを立ち上げる。②デジタルアセット領域における協業と、双方のデジタルアセットに関連する投資ポートフォリオを活用した共同投資。③サウジアラビアでの事業拡大に関心を持つ、デジタルアセット領域の日系スタートアップを発掘し、その進出と成長を支援する。