『嘘解きレトリック』鈴鹿央士、『silent』と同じくらい “やさしい” キャラだが…「なにをやっても鈴鹿央士」にならない理由
鈴鹿央士にとって、『silent』に匹敵する “アタリ役” になりそうな予感がびんびんだ。 10月7日(月)にスタートした鈴鹿と松本穂香がダブル主演する月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)。月9では珍しく、およそ100年前の昭和初期を舞台とした貧乏探偵×能力者によるレトロ・ミステリーである。 “人の嘘が聞き分けられる能力” により、周囲から忌み嫌われていた浦部鹿乃子(松本)は、生まれ育った村を出て九十九夜町にたどりつく。空腹で行き倒れになったところを、やたら鋭い観察眼を持つものの、依頼が少ないため借金まみれの貧乏探偵・祝左右馬(鈴鹿)に助けられる。 左右馬は鹿乃子の能力を知りながらも気味悪がらず、彼女を探偵助手としてスカウトするところまでが第1話で描かれた。 ■テンプレ感のある主人公像だが… 鈴鹿にとって今作は、ゴールデン・プライム帯連ドラ初主演作になるが、左右馬というキャラクターが鈴鹿にマッチしており、逆に鈴鹿が演じることで魅力が引き立っていると感じた。 左右馬は探偵事務所を営んでいるものの、家賃を払えないほど貧乏で、日々の食事は気のいい店主が切り盛りする近所の食事処でタダ飯を食べさせてもらっている。飄々として掴みどころのない人物に見えるが、根っこの部分に誠実さとやさしさを持っているタイプだ。 一見するとちゃらんぽらんだが、実は切れ者というキャラクター造形は、誤解を恐れずに言うなら、非常にありがち。テンプレ感さえある。 だから、この左右馬という主人公像に目新しさはない。ただ、そんなありがちなキャラも、鈴鹿が演じることで魅力が最大限まで引き出されているのだ。 第1話終盤、左右馬は「嘘が聞こえるなんて、探偵として素晴らしく便利じゃないか!」「とにかく、たくさんの人の力になれる。そしてたくさんのお金が稼げるのです」と、鹿乃子を探偵助手にスカウトする。 けれど、当の鹿乃子は自分の能力を怖がられるのではないかと思っており、「だって……祝さんは、私がそばにいるのが嫌じゃないんですか?」と尋ねるのだが、このときの切り返しが真骨頂。 左右馬はきょとんとした顔で「うん、嫌じゃないよ」と即答し、そのすぐ後に冗談っぽく「僕は正直者だから」と続ける。 鹿乃子は「正直者」という発言は嘘だと見抜いてツッコミを入れるも、「嫌じゃない」という発言に嘘はなかったことに気づいて安堵し、彼を信頼する。 この「嫌じゃないよ」と言ったときの鈴鹿の “きょとん” が秀逸。その表情ひとつで、左右馬のやさしい人間性を表現していたように感じた。 ■『ゆりあ先生の赤い糸』で演技の幅を広げる 鈴鹿は『MIU404』(2020年/TBS系)、『ドラゴン桜(第2シリーズ)』(2021年/TBS系)、『六本木クラス』(2022年/テレビ朝日系)などのヒットドラマへの出演で知名度を上げていったが、彼の人気を一回り大きくしたのは『silent』(2022年/フジテレビ系)だった。 社会現象化するほどの大ヒットとなった『silent』では、川口春奈演じるヒロインの彼氏役を好演。鈴鹿が演じた彼氏は「主成分=優しさ」と評される人格者で、それゆえ目黒蓮演じる元彼と再会したヒロインの気持ちを想い、自ら身を引いていく。 お人好しすぎるやさしい彼氏役が鈴鹿にマッチして、まさにアタリ役となり、『silent』ファンのなかでも目黒より鈴鹿を推す派も少なくなかった。 『silent』の彼氏役も『嘘解きレトリック』の貧乏探偵役も、どちらも “やさしい” という共通点はあるが、かといって「なにをやっても鈴鹿央士」になっていないのは、彼の演技の幅が広がっているからだろう。 その2キャラは根っこに持った温かさは似ていても、アウトプットされる表情や振る舞いは違うので、やさしさのバリエーションが異なっているのだ。 個人的には、ちょうど1年前に放送された『ゆりあ先生の赤い糸』(2023年/テレビ朝日系)で鈴鹿が演じたキャラも、とてもよかったと思っている。既婚男性を純粋な気持ちで愛してしまったがゆえに、少しずつ歪んでいく狂気感が素晴らしかった。 このように、『silent』後にもさまざまな役どころに挑戦し、演技の幅を広げてきたからこそ、『嘘解きレトリック』で『silent』とは違った “やさしさ” を表現できているのかもしれない。 ――今夜放送の第2話では、鹿乃子が探偵助手となって初めての事件が描かれる模様。『嘘解きレトリック』の主人公が、鈴鹿にとって『silent』に匹敵するアタリ役になることを期待している。 ●堺屋大地 恋愛をロジカルに分析する恋愛コラムニスト・恋愛カウンセラー。これまで『女子SPA!』『スゴ得』『IN LIFE』などで恋愛コラムを連載。現在は『文春オンライン』『現代ビジネス』『集英社オンライン』『日刊SPA!』などに寄稿中
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