トランスジェンダーの“吹き替え”どうする?…報道局員が考える「多様性」の伝え方
■「性別に違和感」の表現に、トランスジェンダーは…
◯ファシリテーター・白川大介: 企画作成にあたって、他にも気をつけたことはありますか? ◯NY支局長・末岡寛雄: まず、LGBTQ+の当事者の人から見てもポイントを外していないかどうか、企画立案の段階、そして一度原稿を仕上げた時点で、アメリカの当事者と、本社の白川さん、谷生さんにアドバイスを貰いました。 すごく気を付けて原稿を書いたつもりだったんだけれども、例えば谷生さんから指摘されたのが「性別に違和感をおぼえた」っていう表現。主人公のギャビーさんは男性から女性に性別移行した若者ですが、谷生さんは「男性でいることに対して耐えられなくて、ホルモン治療を始めた方だと思います」と。だからその「違和感」くらいのレベルで子どもにホルモン治療をすると「虐待だ」みたいな意見も出るかもしれないから、例えば「男性でいることに耐えられなかった」みたいなナレーションにした方が良いのでは、というアドバイスをもらいました。で、なるほどなー!と。彼女の思いは取材で確認出来ていたし、その方が彼女の思いが表現されるので、そうしました。 あとは白川さんから言われたのは、「生まれた時の性別」っていう表現。「そこは物心ついた時から自分はもう男だ、女だって認識する人もいる。だから生まれた時の“体の”性別って言ったほうがいいですよ」みたいなアドバイスを頂きました。 それから日本語に訳すときの語尾ですよね。なんとか「だわ」とか、なんとか「だぜ」とか、海外映画の吹き替えみたいな語尾ってすごく気になりませんか?翻訳する時にはどういう日本語が適切か、極力フラットな日本語にするようニューヨーク支局内でも議論しました。
◯ファシリテーター・白川大介: 谷生さんがおっしゃった、性別に違和感をおぼえたっていうところですけれども、やっぱり「違和感」っていう表現が、なんかまだ我慢できそうな感覚であるようにも聞こえるじゃないですか。そうではなくてトランスジェンダーの方は本当に切実に、もう無理だと。私はこのままの性別では生きていけないっていうくらいのものがあって、性別移行に踏み切るんだっていう。やっぱり谷生さんご自身が体験していらっしゃるからこそ、リアリティーがあるし、そういう指摘が出てきたんだなと思いました。 ◯国際部デスク・近野宏明: 私としては、こちらで何か意味を持たせてしまうような加工や編集は避けたほうがいいだろうなと。こういう企画こそエモーショナルにならずに冷静に粛々と伝える方が、事の本質が伝わりやすいのではないかと思って…でもそこはたぶん、関わっている人たちみんな、似た思いを持っていたのではないかと思います。